5 『怪物姫』のお茶会
とは言ったものの、私は社交界の繋がりがほとんどない。特に同年代とは絶望的だ。
ちなみに私の社交界でのあだ名は『怪物姫』らしい。怪物と姫のなんと取り合わせの悪いことか。逆にセンスがある。
何か餌が必要だった。招待を断られないための……と、思って、眉目秀麗文武両道の諸悪の根源(?)であるユージーン公爵を招こうかと思い至った。ついでにお隣の領地の次男坊……最有力の婚約者候補のパトリック・ハーティス伯爵令息も。
ハーティス伯爵令息についても私は噂程度にしか聞いていないが、物腰が穏やかで見目も優しそうな好青年と聞いている。両親に、彼と結婚したいと思うのですが、と以前言った時にも頷いていたくらいだ(その時は昔の約束などすっぽ抜けていた父だが)。
まずこのお二人を招待して、応じてくれるというならばお二人の名前も書いた招待状を適当に高位貴族に配りまくればいい。皆『怪物姫』とあだ名される私と、ユージーン公爵とハーティス伯爵令息の心射止める為に、ここぞとばかりに盛装してきてくれるだろう。
私も思い切り盛装してやろう。こういう戦いは、嫌いじゃない。
「私に似合うドレスは何色かしら?」
「お嬢様は美しいので何色でもいいかと思います! ただ、お茶会ですので金は目立ちすぎますし……」
「金。いいわね、金色のドレス。どうせ少し先なのだし、社交シーズンも終わってブティックも暇でしょう。仕立てるわ、お茶会用の金のドレス」
「えぇ?!」
金のドレスは着た事が無いけれど、夜会ならさぞ華々しい感じになるだろう。
私の髪も金髪だし、紗々を重ねたような金ならば昼に見ても下品には見えない筈だ。それに、お茶会とはいえ盛装してくる女性たちを圧倒しなければならない。
金の、お茶会に相応しいドレス。なかなかに無茶な注文だが、デザイナー心は擽るのではないだろうか。
私はバーンズに早速ブティックの約束を取り付けさせて、明日には伺う事も伝えた。とにかくお茶会用の金のドレスという事は先に伝えておいて、生地だけでも選んでいてもらいたい。私の見た目は酷く伝わっているだろうが、採寸サイズはもう伝えてあるのだからそのサイズで、という事ももちろん同様に伝えるように申し付けておく。
明日、ブティックにいった時にどんな反応をされるのか楽しみだ。
まずはブティックのデザイナーの心を掴まなければいけない。私という存在を飾り立てる相手に舐められてはこのお茶会の意味が無くなる。
見てなさいよ、根拠のない悪口を流した王都の社交界。
私という存在でぶん殴ってやるわ!
「という事だから、明日はそうね、手持ちの中でも一番私に似合いそうなものを着ていかなければ。アンヌ、手伝ってくれるかしら?」
「もちろんです! あぁ、とても素晴らしいお嬢様で屋敷の者は昨日から本当に……気付くと涙が……、明日のドレスはやはり赤でしょうかね! 真っ赤なバラをイメージした盛装にいたしましょう!」
唯一の救いは、なんとも形容しにくい私を両親の言葉を信じていてくれた屋敷の人達かもしれない。
これだけやる気を出してくれるのならやりやすい。他の準備も初夏である事だし、薔薇をアクセントにやっていこうかしら。
そこまで考えてはたと考えた。どうせなら、国境で私がやっていた事もお披露目したいものだ。
私は領地に早馬を出し、隣国の街から少量我が領の街に卸されるお菓子を大量に買い付けてくるように伝令に手紙を持たせて走らせた。