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11 『金の薔薇』のお茶会

 後の案内は全てバーンズに任せた。『怪物姫』と呼ばれる私がエントランスで出迎えては、せっかく驚いてもらうチャンスが台無しだからだ。


 先にサロンでお茶を飲んで待っていたセルゲウス様に気を取られている令嬢たち。少し遅く登場したハーティス伯爵令息も混ざると、どうやら彼もかなりの人気者のようだ。この二人は今回招かれたたった2人の男性である、自然と挨拶からの会話になっていたが、セルゲウス様は一切にこりともしない。


 先に仕込みのお願いをしていたのもあるが、社交性が死んでいるという噂は別に間違っていなかったようで、令嬢たちもハーティス伯爵令息も当たり前のようにやりすごしていた。


 私はドアの隙間から全員が入ったサロンをそっと覗いて、深呼吸をする。


 別に今更緊張する性質では無いけれど、自分が商品という商売はやったことがない。あくまでも私は、領主として領の名産品を売りつける、または買い付ける、そういう事業を行ってきたのだ。


「行くわよ、バーバレラ」


 自分に小さな声で言い聞かせると、口元に微笑を浮かべて私はサロンの扉を両開きに開いた。


 庭の方へ向かって招待客の間を、視線を一身に受けながら歩いていく。真っ先に立ち上がって優雅に礼をして出迎えてくれたのはセルゲウス様だけど、招待客の女性たちも、先に顔合わせをしたハーティス伯爵令息も、ぽかんとしたまま私を見送っている。


 窓の縁、陽光が差し込む所でくるりと室内に向き直る。


「本日はお集まりくださりありがとうございます。皆様の間で私は有名なようですが、改めて自己紹介いたします。バーバレラ・ドミニクです。これからは王都にも顔を出すようにいたしますので、何卒よろしくお願いいたしますね」


 柔和に微笑みながら薔薇の咲き誇る庭の前に立って招待客へ優雅に一礼すると、先程までの仏頂面が嘘のようにセルゲウス様が最初に進み出て私の手をとり甲に口付けた。


「とてもお美しい女主人に迎えられて光栄です。バーバレラ嬢、今日の貴女はまるで大輪の金の薔薇だ。どこぞの誰が流したか分からない『怪物姫』などという呼称は似つかわしくないにも程がありましょう」


 私にたいして『だけ』発揮される社交性と、周囲に『だけ』刺さる毒舌のなんという強烈なことか。表情が引きつらないようにするのに必死だったが、セルゲウス様の挨拶の後でハーティス伯爵令息が同じ挨拶をするわけにはいかない。失礼に当たる。


 そもそも辺境伯はどちらかといえば王族に近い権限を持つ高位貴族だ。その令嬢を見た事も無いのに『怪物姫』と噂していた事も、ハーティス伯爵令息のように2人きりだからと高圧的な態度に出るのも間違っている。


 公爵であるセルゲウス様がここまで芝居(芝居かどうかは定かではない)を打ってくれて、まだ私を悪く言う度胸がある人がここに何人いるか、と思いながら、セルゲウス様と親し気に片手を預けたまま並んで立って、周囲を見渡す。


「隣国のお菓子もお持ちしましたの。アイスティーもありますから、お好きに歓談なさってくださいな。順番に挨拶に向かわせていただきますね」


 立食形式のお茶会だったから全員立ったままだが、私を見るセルゲウス様の表情があまりに珍しいのか、私が噂とは全く違う女だったからか、会場中の女性が口を開けたままこくこくと頷くしかできないでいる。


 ハーティス伯爵令息は優男の仮面を何とか取り繕って近くの女性と会話をしていたが、セルゲウス様と一緒に挨拶周りに行ったときに、私の表情とセルゲウス様の顔を見て、顔色が悪くなったのを私は見過ごさなかった。


「……という事ですので、あなたの婿入り、私はちっとも必要としておりませんの。お分かりになりまして? 先日の無礼は……ご両親にしっかりお伝えしておきますので。お隣ですから、ね」


 小さく耳打ちし、その場の令嬢たちとも話して(私よりも私と一緒に居ると表情が柔らかい別人のようなセルゲウス様と話したそうにしていたが)、令嬢たちがセルゲウス様に声をかけると「はい?」と途端に無表情で氷点下の声になるので固まる、という事を繰り返して会場を回った。


 私の事を絶賛する令嬢もいた。セルゲウス様もそれには喜んでいたし、私を本当に美しいと思って仲良くなりたいという令嬢とは積極的に会話をした。こういう人脈は大事にしていて損は無い。


 セルゲウス様という試金石もあり、私も相当張り切って盛装した甲斐もあり、金の薔薇のお茶会は成功した。

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