前の召環者
「まあ、そう気を落とすな。 それが邪魔なのは分からんでもないが、そんなに心配することじゃない」
師匠は剣を指して言った。
……今の所、懸念しかないのだが。
腑に落ちない僕に師匠は説明する。
「お前の居た国では違うかもしれないが、この国だと身分の高い貴族やなんかは護身用の武器を携帯してる。 それに国民にも召環者と魔剣の事は周知されてっから、歩いてるだけで危険視されるなんてのは稀だ」
なるほど、確かにそれなら、この国で過ごすのに、差し支えは少ないだろう。
……だが、僕にとってそんなのは瑣末でしかない。
「……不満そうな顔してんな」
当然じゃないか。
今は、ここでの生活を憂慮しているのではない。
僕の目的は――。
「元の世界に戻る、だったか。 ……あまり期待せずに聞いて欲しいんだが、手がかりは、あると言えばある」
話が長くなるようだからと、用事も進めるために城を出て、少し人の増えた街中を歩く途中で、仕方ないな、と師匠は渋々と言い始めた。
「……本当ですか?」
方法を模索するつもりではいたが、糸口も無く当惑しかけていたときに、その言葉はまさしく光明だった。
「ああ。 この国の、と言っても辺境の方だが、5年前に来た召環者がそこに一人で住んでいる。 お前から見たら先代ってとこか」
僕の一つ前に来た召環者か……。
そういえば、師匠が他の召環者について話してくれたのはこれが初めてじゃないか。
「ドラゴンを倒して以来、自分の世界に戻る方法を探すために旅をしていたそいつは、去年久しぶりに顔を見せたと思ったら、不気味なほど口数が減って、日頃から鬱陶しがってた魔剣も持っていなかった」
その人も僕と同じで、元の世界に戻ろうとしていたのか。
ドラゴンを倒してから去年まで……、4年間探して、それでも戻れなかった……。
「そいつは移住の申請書を出して、そのままふらふらとどっかに行っちまった。 まるで、魔剣に魂でも奪われたみたいに……」
滑り込みアウトです
修正(25/12/12)
・数字の表記を修正




