暗くて広いのは嫌い
謎の剣に取り憑かれて早数十分。
僕は別れ道まで戻り、もう一方の道を進んでいた。
剣は意外に軽く、ずっと下げて持っているがほぼ疲れはない。
まあ、どうせ重かろうと勝手に持たされるのだろうけど。
未だ松明は盛んに燃えており、辺りを明るく照らしてくれている。
炎が消えてしまう前に明るい場所に出られればいいのだが。
突然、続いていた壁と天井が途絶えた。
道が広くなったか、広い空間に出たかだろう。
歩みを進めると急に音がより響くようになった。
案の定、開けた場所に出たようだ。
後ろ以外の壁は松明で照らせないほど遠く、思っていたより大きい空間だ。
ここはどういった所なのだろう。
松明を前にかざすと、目の前の闇の中にギラりと二つの光が見えた。
その刹那、風を切るような音が鳴り僕は真横に吹っ飛ばされた。
「っ―――」
何の抵抗も出来ないまま僕の身体はすぐバランスを崩し、横に倒れた。
転倒の衝撃はさほどではなかったが、地面と擦れた際に負ったと思われる擦り傷の鋭い痛みと、何かに殴られたかのような鈍い痛み両方が僕を襲った。
「いった……! 何が―――、……!」
飛ばされた際に取り落とした松明を探し、拾いに行こうとしたが、その後ろに明らかに異質で、圧倒的な存在がいた。
僕の脳裏に浮かんだ言葉は『ドラゴン』。
松明程度の灯りではその全貌までは見えないが、巨大な蜥蜴をベースに、肉食恐竜の凶悪な頭部と二対の蝙蝠の羽が付いたような見た目からは、それ以外の言葉が出てこない。
「え……これって……」
映画の特撮か何かか?
しかし、わざわざこんな暗い場所を選ぶ訳が無い。
荒い息遣いや猛々しい四肢はとてもフェイクとは思えない。
もしやこれは本物なのか?
架空の存在に本物も何もないだろうが……。
『ヴゥォァア゙アァァッッッ!!』
ドラゴンが獲物を戦慄かそうと威嚇してきた。
あまりの迫力に体が竦む。
咆哮一つ取っても風圧が凄まじい。
いつもの癖でつい状況を鑑みず思案に耽ってしまったが、どう考えてもそんな場合ではない。
不本意ながら剣を持っているとはいえ、今日まで当然剣を握ったことも無かった僕がこんなのに敵う筈が無い。
逃亡以外に生きる道は無さそうだ。
しかし相変わらず周囲は暗く、入ってきた通路がどちらにあるかさえ分からない。
これまでの道のりが総じて行き止まりであったことからこの広間のどこかに他の通路があるのは間違いないだろうが……。
松明も僕とドラゴンの間にあり、到底拾いに行けるような位置ではない。
がむしゃらに逃げ回るほか無さそうだ。
ドラゴンが大きく仰け反って、息を吸いだした。
このモーション、恐らく次はブレス攻撃と見た。
ゲーム知識が役立つ時が来るとは思いもしなかった。
これ以上の好機はない。
僕は一目散に走り出した。
ドラゴンとの距離をある程度開けた時、再び咆哮が聞こえた。
少し経って、背後からジリジリと物が焼けるような音と何かが焦げたような臭いがしだした。
後ろを一瞥すると、僕の持っていた松明が持ち手の部分まで全て燃え上がっている。
さしずめ『ファイアブレス』と言ったところか。
暢気なことを考えていると、壁に激突した。
「んぐっ?! ぐぉお……」
油断してたのもあってかなり痛い。
暗闇の中を走っていたというのに、迂闊だった。
痛む顔を抑えつつ、壁に沿って急ぎながらも慎重に再び走り出した。
修正箇所 続いていた壁が途絶えた→続いていた壁と天井が途絶えた
(20/04/27)