対峙
僕らは森に着いた。
先程までの喧騒が嘘のように、今や森は静まり返っていた。
外から見ても変わった様子はない。
だが、ここに悪炎竜が現れたのは間違いない筈だ。
それを証明するかの如く、ヘルムをしたボロボロの兵士が、怯えた様子で森から出てきた。
「――、――――!」
「なんだと?!」
翻訳魔石を手にしていない兵士の言葉はわからなかったが、焦った口振りに、師匠の応答も鑑みると、およそ穏やかな話ではない。
「―――、――――――」
「ああ、分かった。 ……案内してくれるか?」
「……、――!」
兵士は師匠の言葉に頷き、今来た道を戻りだした。
師匠も僕も、何も言わずに兵士に続いた。
暫く歩くと、景色が一変してきた。
焦げた臭いが辺りに充満し、よく見ると木の表面が炙られている。
それだけではない。
この一帯だけ、空気が熱い。
僕が初めて悪炎竜と遭遇した時も、”ファイアブレス”なんて僕が呼ぶ程の攻撃をしてきたのを思い出した。
この熱気も、木の焦げも全て奴に起因する可能性が高い。
師匠も、周囲の様子を見て警戒している。
「―――――、――――」
兵士が小声で前方を指した。
木々の隙間から、森に穴が空いたかのように焼け野原が広がっている。
焼き焦げたテントのようなものが点々とあり、まさか人だろうか。
その荒んだ土地の中央付近。
紅い竜が居た。
佇む竜は、圧倒的な存在感と、凶悪な見た目を除けば、蜥蜴に似ていた。
その巨体は真っ赤な鱗に覆われていて、背には膜が張った二対の大きな翼がある。
――僕が地下で見たあのドラゴンに違いない。
不意に、頭部の深紅に輝く瞳がこちらを捉えた。
気配を察知したという感じではない。 まるで、僕が来るのを知っていたかのように、何のきっかけもなくドラゴンは振り向いた。
「おい、お前は逃げろ! 風魔法『ウェルテクス・エピタキンシ』!」
師匠が兵士に向かって叫び、詠唱すると、命令を呑んで走り出した兵士の足が突然速くなり、やがて姿が見えなくなった。
その間ドラゴンはというと、いつの間にか距離を詰め、僕と師匠の前まで来ていた。
「――っ!」
咄嗟に師匠は距離をとるが、しかしドラゴンに動きは無く、目線さえ動かさない。
それよりも、僕の方が見つめられている気さえする。
「ヴゥォオア゙ァァァッ!!」
凄まじい咆哮が浴びさせられる。
近くだと尚一層、迫力がすごい……!
「おっと、いつも通り狙いはそれか。 なら動き易いってもんだ!」
師匠は何かに気付いた様子で後ろに下がり、ドラゴンと対峙している僕に呼びかけた。
「おい、……ああ! 名前聞いてねえ! まあいい、召環者、奴の狙いはお前の剣だ!」
手元の剣を一瞥する。
この呪いの剣が……?
剣を放り投げて逃げれるなら話は早いが、この手から離れない剣では無理だ。
そもそも、逃げたところでドラゴンが暴れ出すだろう。 それでは駄目だ。
それはそうと、試しにドラゴンの前で剣を左右に翳してみると……、めっちゃ食いついてる。
剣の動きに合わせて首を振ってくるのだ。
しばらく遊んでいると、突然前足を振り上げてきた。
咄嗟に横に飛んで攻撃を躱す。
……スライムとの戦いが生きたというのか。
「何してんだお前……、とにかく俺は、攻撃が通らねえから、お前の補助しかできない。 だから、さっさとぶちのめしちまえ!」
相変わらず無茶振りだ。
それでもやるしかない。 僕がそう決めたのだ。
目の前の悪炎竜が、鋭く僕を睨みつけた。
兵士、何言ってんだろう?
修正 (20/10/06)
ウォルテクス→ウェルテクス




