再遭遇
日がほぼ真上に位置する頃、僕は強い日差しの中を、昨日の森へと向かって進んでいた。
話に拠ればドラゴンは召環者が目覚める『祠』からそう遠く離れない場所に出現するらしく、今回も森の中だろうと予想されたそうだ。
先程、師匠が逃げてもいいという話をした時に、僕は理解した。
この世界に住む人達はきっと、”悪炎竜”や”召環者”を望んで呼び出したのではない。
僕だって魔法の世界に憧れはあっても、行ってみたいなんて願った覚えはない。 そういう意味では、僕もこの世界の住人も被害者なのだ。
そう気付いた僕は、ここの人達に親しみを感じたというか、同情しないわけにはいかず、出来る限り尽力しようと思えてしまった。
しかしドラゴンと相討ちして、僕だけが犠牲になるというのは、なんだかクサいし、口惜しい。
故に現在、僕の勝率と生存率を上げるべく、移動しながら魔法の練習をしている。
確か師匠の言った必要な魔法は、『飛行魔法』、『強化魔法』、『防御魔法』、『遠隔攻撃魔法』の四つだったはずだ。
ドラゴンとの戦闘を想像すると、必須だということが目に見える。
これらを少しでも多く形にするべく、師匠に魔法を教わりながら城を出たのであった。
「まず優先すべきは飛行魔法だな。 これはさっきも言った通り、風を起こすだけの『風の基礎魔法』の応用なんだが、なんかこう、ふわーってイメージで……」
……前途は未だ多難だ。
しかし時間もないこの状況で贅沢は言えない。
可能な限り戦力を高めなくては。
それにしても、日中だと言うのに、昨日と比べても街に人が少ない。
召環者たる僕が出現した事が周知され、同時にドラゴンの出現も予期されて多くが避難したのだろう。
時折すれ違う人も、凡そ活気がなく、師匠と僕の顔とを見比べては、真っ直ぐ目を見つめてきたり、失望して項垂れたりと、様々な反応を見せる。
師匠も、僕が森で出会った兵士に”団長”と呼ばれているのだから、街ではある程度有名に違いない。
そしてその団長が連れている見知らぬ顔は、時期的に”召環者”しか有り得ない。
つまり、この街の人達の反応は、僕が召環者だと知っての反応だということだ。
師匠に聞いた話では、五年毎にこれが起こるとはいえ、ドラゴンが地上に来るまでに討伐されなかったのは数十年ぶりらしく、人々はかなり焦っている。
その上、頼みの召環者がつい昨日目覚めたとなっては、僕を恨む気持ちも分からなくない。
正門をくぐり街から出たあたりで、徐に僕の身体が浮き上がり始めた。
ここが正念場だ……、不安定な身体に微弱な風魔法を送り、バランスを整えつつ、前に進む。
「……よし、出来ました」
報告すると、師匠は笑顔で応えた。
「やるじゃねえか。 基礎魔法の無詠唱は基本とはいえ、ここまで早く習得するのは珍しい」
魔法名を口に出さずに発動することを無詠唱と言うらしい。 通常、魔法というのは詠唱ありきだが、基礎魔法と呼ばれるその属性の基礎となるシンプルな魔法は、無詠唱の方が使い勝手がいいらしいのだ。
ともかくこれでドラゴン討伐に一歩近づいた。
さて、残りの三つを――
(――――――……!)
遠くから地鳴りが響いた。
「う、うぉっ……!」
空中にいた僕は分からなかったが、振動も来たらしく、師匠が体勢を崩した。
音は、森の方から聞こえたようだが……。
「大丈夫ですか? 今のは、……!」
(―――ヴォア゙ァァッ……!)
距離が距離なので掠れているが、確かに聞き覚えがある咆哮だ。
師匠も気付いた様子で、起き上がり音の聞こえた方に向き直る。
僕がこの世界に来たことで現れてしまった災厄。
「悪炎竜……!」
見切り発車でやると、話が進むほどに矛盾の回避が大変になりますね…




