僕が魔法を使えた理由
「これは一体……?」
鍛錬場の地面に描かれた紋様を指して僕は言った。
大きな円の中に重ねられた数多の線は規則的に繚乱していて、一つの芸術作品でも見ている気分だ。
「こいつは『魔石陣』だ。 要所に設置した魔石を媒体として、強大な魔法が使えるようになる」
さしずめ魔法陣と差異はなさそうだ。
しかし、やっぱり良いな、魔法陣って。
説明し難いが、とても厨二心を擽られる。
「んで、今朝はこれを使って鍛錬を行う。 解析の結果、今日の正午に悪炎竜が再出現するみてえだから、流石にそれまでには終えるぞ」
今日はどうやら早上がりらしい。
と言っても、今日がドラゴンとの本番戦である訳で、僕は今朝からかなり戦々恐々としている。
体を動かしていれば、幾らか気が紛れるだろうから、僕としては鍛錬は望むところだ。
「あ、そうだ。 師匠、昨夜魔法が使えました」
魔石陣だっけ……? それに気を取られて、すっかり昨日の出来事を忘れていた。
「お? おぉ、やるじゃねぇか! 魔法が使えるのと使えないのとじゃ、雲泥の差だからな! よし、後半の鍛錬メニューは決まりだな……」
何やらとても喜んでいる。
それもそうか、ドラゴンへの勝率は、即ちこの大陸の生存率なのだから。
――そう考えると、ストレスでお腹が痛くなってきた……。
「にしても、何故急に出来る様になったんだ? 昨日は俺の真似をしても、てんでダメだったのに」
言われてみればそうだ。
昨夜は静かな部屋の中で、何度か魔法名を呟いただけだ。
特別なことは何も……、いや、一つだけあったな。
「魔法を発動する前に、魔法名の意味が分かったんです。 一部の魔法名に、僕の国のそれじゃないけれど、何処かで聞いたような言葉が入ってると気づいて、その意味を思い浮かべました」
昨日僕は、『カタルシス』という言葉に引っかかり、更に『フランマ』の意味を予想して魔法を唱えた。
考えられるのは、これくらいだろう。
「ほう? 魔法名の意味が分かった? 変だな」
……何が変なんだ?
「魔法名は、魔法の意味を簡潔に纏めてあるんだがな。 それに、他の国の言葉だって?」
……何がおかしいんだ?
確実に、魔法名は横文字ばかりで日本語は無かったはずだ……。
「他言語が混ざるなんざ、翻訳魔法が上手くいってないのか……? いや、前にもこんな事があったな。 確か……」
「ニホン、だったか?」
男はそう続けた。
ニホン。
日本。
……僕の元の世界での故郷だ。
「そっから来た奴らも、殆ど魔法が使えてなかったな。 同じ世界で他の国の奴らは特に何も無かったが……」
さっきから彼はずっと一人で喋っているが、そんなに不思議だったろうか。
彼の話を纏めると、魔法名は魔法の概要を簡潔に纏めてあり、翻訳魔法を通しても意味は伝わるそうだ。
しかし、同じ世界でも日本人だけは魔法が殆ど使えず、その一人である僕にとって、翻訳魔法を通した魔法名は知らない横文字を含んでいた。
……なんか、何となく理由がわかった気がする。
恐らく日本語という言語の特徴に全ての原因があるのだろう。
確かに、外来語や横文字は格好良いから使いたくなる気持ちはわかる。
それに、他言語から和訳するよりそのまま使う方が的を射る事もある。
そういった要因が積み重なった結果、翻訳魔法は、日本語にするために日本語以外も出力した、そういう事なのだろう。
僕は、母語の強欲さと難解さに溜め息をついた。




