奪われたもの
「あたしは……、――正直に言うと、ソフィアちゃんが怖いです。 ううん、正確には、この国全部が怖い。 あたしの両親を、見捨てたから……」
ソフィアは、多少ショックを受けたようだったが、そこまで大きな動揺は見られない。
おそらく、手紙の内容を知っていたのだろう。 彼女の両親の、結末も。
「だから、いつかあたしも、あっさり見捨てられちゃうんじゃないかって。 邪魔になったら殺されるんじゃないかって、ずっと見えないものに怯えていました」
不安を抱くのも、疑心暗鬼になるのも無理はない。
彼女は既に、大切なものを奪われている。
「もちろん、ソフィアちゃんもアリシアさんも、あたしを助けてくれた恩人です。 そんなこと、考えられないし、考えたくもない。 なのに、どうしても頭から離れない」
彼女も分かっているのだろう。
憎むべきは国であり、冷酷な決定を下した上層部だ。
しかし彼女の猜疑心は、暗闇の中で方向を見失っている。
それには、この国の教育、もとい洗脳も関わっているのだろうか。
「だから、あたしは一緒には"行けない"。 ごめんね、ソフィアちゃん。 そして、みんなも」
最後の言葉は、僕とダリアに向けられたものだった。
本人としては、自分の思いを全て伝え切ったつもりなのだろう。
無論、それに納得できない者も居る。
「……なんでアスピダ姉が謝るの? 誰のせいでもないよ。 ――もし誰かのせいにしないといけないのなら、それは絶対にアスピダ姉じゃない」
頬に水滴を伝わせながら、ソフィアは強く言い切る。
僕も同じ気持ちだ。
彼女の主張は、それだけでは終わらない。
「それに、一番大事なことを聞いてない。 できるできないの話じゃないわ。 "アスピダ姉は"、"私と一緒に冒険したくないの"?」
その言葉に貫かれたかのように、アスピダが大きく目を見開く。
しかし、すぐに返事は出ない。
視線を頻りに左右へ動かしたり、何かを言いかけては口を閉ざすのを、僕たちは静かに見守った。
数分の沈黙。
それは永遠にも、一瞬にも感じられた。
やがて彼女は、勇気を出して口を開く。
微かに漏れ出た声は、しかし掻き消された。
街に、恐ろしい警報の音が鳴り響いた。




