数年の手紙
事態が動いたのは、その年の暮れ。
あれ以来大きな争いは起きなかったため、国の厳戒態勢もようやく解かれ、国民の緊張が少しずつ和らぎ始めた頃だった。
あたしは、ソフィアからその報せを聞いた時、まるで夢を見ているかのような錯覚に陥った。
何度聞き返しても、実物を見るまでは信じることができなかった。
数年振りの連絡が届いたのだ。
あたしの両親から。
アリシアさんから手紙を受け取り、覚束無い手付きで封を開け、おそるおそる中身を取り出す。
所々滲んでシワシワになった紙面には、優しい筆跡で、あたしの知らなかったことが幾つも記されていた。
第一に、あたしの両親はあの日、隣国に拉致されていたこと。
高名な医者である父が狙われ、家に押し掛けて来た諜報員によって、空襲前には既に二人共隣国へと連れ去られていたらしい。
あの攻撃には巻き込まれていなかったことを知り、あたしは少し安堵した。
どんな形であれ、生きていることが嬉しかった。
第二に、あたしの安否は、両親にも伝わっていないこと。
人質たちはそれぞれ手紙を書くことを許可されたが、両国共に厳戒態勢を敷いていて、情報のやり取りは叶わない。
手紙が届くのは数年後になるかもしれないと、殴り書きのような字で書いてある。
その後ろには、あたしの無事を願う言葉が、何度も、何回も繰り返されていた。
最後に、敵国が人質交換の条件を呑まなかったため、あたしの両親はもうすぐ、……処分されること。
あたしは手紙を投げ出して、外に飛び出していた。
パカになったあたしの脳みそは、足を止めることを何故か許さなかった。
泣きながら通りを駆けて行くあたしに向けられた奇異の目は、"悪意"に満ちているような気がして、怖くなったあたしは路地に逃げ込んだ。
ふと気付いたら、あたしはあたしの家の前に居た。
「その時でした。 この国を出ると決意したのは」
アスピダが廃屋の前で自嘲気味に語る。
この世界で最も自由な職業、冒険者になれば、出入国に厳しいこの国でも比較的簡単に出られると考えたのだろう。
冒険者は、国境に縛られない。
「分かってますよ。 どっちが悪いとかじゃなく、どっちも悪いんだって。 ――でも、あたしは、両親を見捨てたこの国だけは許さなかった」
仇とも言える悪意に囲まれて平穏を装い暮らすのがどれほど苦痛だっただろう。
例えそれが思い込みであろうと。
「ソフィアとアリシアさんがそんな奴らの一員じゃないことくらい知ってます。 だけど、――怖かったんです。 この国の"教育"を受けてるからには、いつか捨てられるんじゃないかって」
彼女は、疑心暗鬼に蝕まれ、信じるモノを喪ってしまった。
「学校も辞めて、貸してもらった客室に一人で引き籠って、冒険者になる修行を始めました。 なぜかソフィアちゃんも感化されちゃったみたいだけど……、あたしはようやく解放されたと思ってたんです」
その矢先、ベルフィアに来ることになった、と。
……なんて数奇な運命だ。
改稿(24/5/1)
タイトルが未記入だったため、追加




