訪れた日常
「ちょっと、あたしの教科書どこやったの!」
屋敷の中、声を荒げてあたしは言った。 しかし、怒りや焦りは籠っていない。
誰がやったのかも、その犯人の目的も分かっているからだ。
「アスピダ姉が勉強ばっかりしてるから悪いのよ! 私とも遊びなさーい!」
あたしに追及されてもソフィアは悪びれる様子もなく、強気に言い張って駄々をこねる。
そんなことだろうと思っていたあたしは、それ以上の抗議を止め、仕方なく午後の分の勉強を諦めることにする。
今日はどこまでも晴れた青空。
平和な日常とは奇跡の上に成り立っていることを、あたしは痛感していた。
戦争は、あたしがソフィアの屋敷に保護されてから、およそ一年後に終結した。
勝者は、この国、"ベルフィア"だ。
そもそも、隣国との戦争が長引いていたのは、お互い乗り気ではなかったからだ。
どちらの立場にしてみても、軍事力を使い尽くしてしまえば、それだけ隙が生まれる。
他の敵も多いこの国だから、なおさらそれを警戒していたのだろう。
しかし、今回の奇襲で、ベルフィア側の躊躇は完全に消え去った。
やはり他国とは分かり合えない。 虐げられたくなければ戦うしかないのだ、と。
近年では話し合いの場も設けられ、休戦や停戦の流れも出ていたが、そんな口約束は気休めにもならないことを、皮肉にも今回の出来事が証明してしまった。
軍事力で上回るベルフィアが本気を出した以上、後半の戦闘は、戦争と言うより蹂躙に近かったが、明確な背信行為を働いた隣国に肩入れする国はほとんど無かった。
むしろ、ベルフィア国民の怒りの矛先が自分たちへと向かうことを恐れていた。
士気とは凄まじいもので、その時のベルフィア国には、大国さえも打ち負かす勢いが確かにあった。
飛び火を危惧した多くの国家が、この結果に一切関与しないという姿勢を示した。
あたしの両親は、今も見付かっていない。
二回目の魔法陣が消えて直ぐ、アリシアさんに付き添ってもらって焼け跡を訪れたが、二人の姿は何処にも無かった。
多少家具は残っていたが、お父さんやお母さんが直接身に付けていた物は、一切出てこないのだ。
死んだとは決まっていない。 けれど、生きているとも思えない。
あたしに何の連絡も届かないのがその証拠だ。
代わりに見付かったのは、一振りの長剣。
装飾などはほとんど無く、非常に質素な作りだが、余計な物が付いておらず機能的とも言える。
そういえばいつか、お母さんは昔"冒険者"だったとか話していた――ような気がする。
離れの物置に燃え残っていた物だが、多少煤けてはいるものの、目立つ傷も歪みもなく、手入れせずとも直ぐ使えそうな印象を受ける。
使えそうな家財は全て再利用するか売り払う腹積もりだったのだが、アリシアさんが、それは取っておきなさい、とあたしに勧めた。
形見にしろということなのだろう。
しばらく悩んだが、あたしはその剣を客室に持ち帰った。
その日からあたしは、空いた時間に剣の訓練を始めた。
この長剣が、お母さんがあたしを守護ってくれるんじゃないかと思った。
その様子を見ていたアリシアさんが、時々稽古をつけてくれた。
だんだん剣を思い通り動かせるようになっていくのは楽しいけれど、この頃はまだ、冒険者になろうとは考えていなかった。
書き過ぎず書かなさ過ぎずを意識するのが本当に難しい…
一応矛盾点などは無いはずです(今の所)




