暗くて狭いのは好き
松明の明かりを頼りに進み続けて数分後。
僕は別れ道に辿り着いた。
一つはこのまま真っ直ぐ進む道。
一つは右へ直角に曲がる道。
見たところ大きな差異はないし、松明を使って確認するが風も吹いておらずどちらに行くべきか決めあぐねる。
適当には選べない。
先程聞こえた咆哮がどうも気がかりだ。
あの声はこの建物内で発せられた可能性が高い。
つまり、どちらかの道の先にその発生源が居るかもしれないということだ。
わざわざ獰猛そうな生き物に会いに行くほど僕は狂人じゃない。
と言っても、判断材料が全くない。
地面に足跡等無いかと照らすも相変わらず変哲のない石の床だ。
せめてもう一度声が聞こえれば楽なのだが……。
少しの間立ち止まっていたが、時間が減る一方なのでもう頼りなのは自分の勘だ。
このまま真っ直ぐ進んでみよう、―――と第一歩を踏み出したところで、右の道の奥に何かが仄かに煌めいたのを視界の隅で捉えた。
思わず歩みを止めたが、それ以降何の動きもない。
見間違いかもしれないが、少し気になる。
どの道どちらを選んでも未知の道だ……道だけに。
それにしても、冷えるな。
右の道を進み僅か数十秒の出来事だった。
足早に進む僕の前に、煌びやかな装飾の施された箱が現れたのだ。
箱そのものは木で出来ている様だが、全体に金細工が張り巡らされていて何とも豪華な造りだ。
中央には白色の宝石が埋め込まれている。
成程、さっき光ったのはこれか。
それにしても、これでは所謂『宝箱』だ。
ゲームではお馴染みだが、まさか肉眼で目にする日が来ようとは……。
だが開ける訳には行かない。
こう言う分かりやすい宝箱には何らかの罠が仕掛けられているものだが、危険性も解除法も知り得ない。
更には入っているものが安全とも限らない、古の悪だとかをを封印していたら目も当てられない。
第一、これって窃盗ではないか?
画面の向こうの存在にロマンこそ感じたが、代償が檻の中は御免なので先程の別れ道まで引き返そうと振り返った。
(ガタッ)
背後から物音がした。
悪寒がして、再度振り向く。
……蓋が僅かに開いている。
少しして、鈍い音を立てながらゆっくりと蓋が上がりだした。
この場から立ち去るべきなのだろうが、好奇心に勝てない。
やがて蓋は開ききった。
一体何が入っていたのかと恐る恐る覗き込む。
暗くてよく見えないが、これは……剣、だろうか?
というか、刃渡りの長さが余裕でアウトじゃないか。
割とガチめな凶器に軽く身震いする。
外に出たらまず警察だな……。
箱の中身も分かったところで通報案件に背を向け立ち去ろうとした。
その瞬間。
(バシッ)
「痛っ!」
軽快な音と共に右手に鈍い痛みが走った。
衝撃で松明を落としてしまったが、幸いこちらには転がってこなかった。
どうしてこうも目を離した途端に動きがあるのか。
あと、右手に何か押し付けられている感じがする。
「これ……さっきの剣だ……」
こんな物騒なものは持っていたくないので、必死に引き剥がそうとする。
しかし、剣は頑なに離れようとしない。
握ってもいないのに、吸盤のように手にくっついている。
「『呪い』の品かよ……! しかも見ただけなのに……」
最悪だ。
こんな状態では外を歩けない。
これは神社に行くべきか……?
それとも警察……。
くそ、携帯さえあれば。
仕方なく僕は左手に松明を持ち直し、このまま進んでいくことにした……。