謝辞
「……おい、なんだ、ありゃ?」
通りの向こう、ローブを纏って一人佇む少女に師匠は気付く。
道行く人々も、心做しか彼女の傍を通ることを避けている気がする。
それほどまでに異質だったのだ。 少女の頭身に全く釣り合わない、あまりにも大きな魔石が。
僕は一呼吸おいて、説明を挟む。
「ええと、実は、ダンジョンの探索を進めて、主が居る部屋に入ると、そいつが魔素飽和を起こしていまして……、危なかったところを、偶然部屋の前を通りかかったそこの方に助けてもらったんです」
自分の話をしていると気付いたのだろう、ダリアがこちらに軽く会釈した。
無論、声を出すことはない。 そのための変装だ。
師匠は唖然としている。 会釈を返すことすらも忘れているようだ。
魔素飽和自体が長い年月を要する、珍しい現象だとされているから、人気の多いこのダンジョンで起こるとは思いもしなかったのだろう。
そこに関して言えば、僕も違和感を感じるが……、今は考えても仕方のないことか。
少しして我に返った師匠が、通りを横断し、ローブとフードを着込んだダリアに謝辞を述べる。
一国の騎士団長が、身分も分からない怪しげなフードの少女に感謝している光景は、傍から見ても異様な光景だ。
一方、ダリアの方は顔を見せるわけにも、声を出すわけにもいかないので、謝辞に応えるのに苦労している様子だ。
一頻り少女に礼を言った師匠は、僕が立っている場所まで戻ると、今度は僕に謝辞を述べ始める。
「本当にすまなかった! まさかこのダンジョンのモンスターが、それも主が魔素飽和なんかを起こすのは予想外だった。 危ない目に遭わせてすまない。 今度から必ず注意する」
それは、先程までの”感謝”ではなく、”謝罪”としてのものだった。
修正(22/6/28)
・”謝罪”のもの
→”謝罪”としてのもの




