異世界ファンタジーはTRPGみたいで楽しい
何処かで地響きの様な重低音が鳴り響いた。
「う、うぅ……」
と、同時に僕は目を覚ました。
そして、体に伝わる硬く冷たい感触。
目を開けると、石の地面の上に寝ていたことが分かった。
……見覚えのない床だ。
体を起こし辺りを見渡すと僕が今いるのは狭い通路の突き当たりのような場所で、目前には先の見えない一本道が続いていた。
やけに暗いと思ったら、ここはとある建造物の中のようだ。
窓は一つもなく、明かりとなるものは壁に設置された松明のみ。
その松明が照らす壁や天井も、恐らく床と同じ材質だ。
「どこ……ここ……? どうして……?」
この場所は一体何だ。
そもそも何故僕は此処に居る?
『―――ヴォア゙アァァッ……!!』
「っ……!」
通路の奥、遥か遠くから獣の咆哮ともとれる音が微かに聞こえてきた。
見るからに、というか聞くからに獰猛そうだ。
「な、なんだ……?」
目を凝らして闇を見つめるが余り遠くまでは見えない。
しかし、ここで立ち往生している訳にも行かないだろう。
ここが何処かは分からないが、危険な香りがする。
だが、昨日は確かに自分の部屋で眠りに就いた筈だ。
それなのに、目が覚めたらこんな訳の分からない場所だ。
何らかの事件に巻き込まれた線もあるが、この薄暗い石造りの建造物に放置する意味がわからない。
となれば、恣意的或いは非人為的な要因でここに運ばれたということか……?
いや、今考えても仕方の無いことだろう。
それよりもこの陰気な場所から早く出たい。
ただでさえ知らない景色に困惑しているのに、こうも暗いと気が滅入ってしまう。
とりあえず、と僕は部屋着のポケットの中を探る。
―――ない。
「ん……? あれっ……?」
全てのポケットをまさぐったが昨日から入れたままの筈の携帯が見つからないのだ。
「無い……無いぞ……?!」
もしかしてと辺りの床も手探りで確認するがそれらしきものは落ちていない。
尤も、この周辺の床は松明で照らされているのである程度見えてはいたのだが。
しかし弱った。
灯り、連絡手段、道案内……は建物の中だから使えないか。
その他諸々を一度に失ってしまったのと同じことだ。
それにしても服はそのままで、携帯だけ無くなるとは。
こうなると人の意向が関わっているのはほぼ間違いないだろう。
もしや怪しげな実験でもされているのだろうか。
不安に思い周囲を見直すが、カメラ的な物は無さそうだ。
観察はされていない……。
益々意味がわからない。
とにかく、動かないことには始まらないだろう。
僕は壁に設置された松明まで歩み寄り、手を伸ばした。