91.一年生の戦い
第一ダンジョンの中は魔道灯が取り付けられていたので、進むには十分な明るさがあった。
入ってすぐのところに階段があったので、そこを下りてゆく。
やけに中が静かなので足音がよく響く。
階段を五十段くらい下りたとき、突然広い空間にでた。
正面に数人の人影が見える。先行していたフレデリカと一年生たちだ。私たちが来るのを待っていたらしい。
フレデリカがこっちに振り向いて
「あれを見なよ」
と何やら真剣な声で言ってきた。
フレデリカと一年生たちが見やすいように、左右に少しずれる。
すると見えたのは背が非常に低い、緑色をした皮膚の生物だった。
私の頭にゴブリンというモンスター名が浮かんだ。
ゴブリンは錆ついた剣や短剣を持っていて、三十メートルくらい先からこっちを見ていた。
「いっぱいいるね」
二十体はいる。
「うん」
フレデリカは私に返事をしながら
「何か変だ」
と口にした。
「何が?」
「数だよ。この辺りにこんなにモンスターが出るはずがないんだ。出ても五体くらいさ」
「確かにそれは変だね。フレデリカはこのダンジョンに詳しいの?」
「詳しいというか、常識だよ。誰でも簡単にこのダンジョンの情報は知ることができるし」
「常識⋯⋯」
私はネタバレが嫌なので、何も調べていないから、モンスターの数もダンジョンの構造も知らなかった。
「でも、原因は考えても仕方がないので、一年生のみんな、ゴブリンを倒してみようか。強くはないし」
フレデリカの突然の振りに、一年生たちはざわついた。
「大丈夫。僕らがフォローする。それに君たちもキョーコの噂を聞いているだろ。だから安心してほしい」
私の噂ってなんだろう⋯⋯いい噂じゃなさそうだけど。
「キョーコ。一年生が危ないと見たら、助けてあげてほしい」
「一年生だけで戦わせるの?」
「そうだよ。今回の遠征はそういう趣旨だし」
「そっか。わかった」
でもあの数のゴブリンといきなり戦えるのかな──
と疑問に思っていたら、一年生の一人がロッドを手に
「アダマンの外殻!」
と防御力アップの魔法を唱えた。
一年生全員が淡い黄色の光に包まれる。
カテリナちゃんが何かを両手に握ったので、見ると鉤爪だった。
どうやらカテリナちゃんは格闘タイプらしい。猫の獣人なのでイメージにぴったりだった。
他の一年生たちも、剣や杖を構えたりして私の心配などいらないほど、戦う気満々だ。
カテリナちゃんがスピードアップの魔法をかけてもらったとき
「行きます」
と言って躊躇することなく、ゴブリンの群れに向かって突っ込んでいく。
魔法の効果もあるのか、瞬く間にゴブリンとの距離を詰める。
ゴブリンは目の前に迫ったカテリナちゃんに錆びた剣を振り下ろすも、あっさりと横に回避され、逆に鉤爪で切り裂かれた。
ゴブリンはダンジョンに響く絶叫を上げると、倒れて動かなくなった。
カテリナちゃんは素早く動き回り、次々とゴブリンを切り裂き、突き刺して地に伏していく。
数体のゴブリンが倒れたところで、剣を持った革鎧の子もカテリナちゃんに追いついて戦いに加わった。
前衛はカテリナちゃんと今の女生徒の二人で、あとの四人は攻撃魔法や補助魔法で援護をしていた。
女生徒の剣士も危なげなく、ゴブリンを斬り倒している。どうやら余裕のみたいだ。
ゴブリンが十四、五体ほど倒れたところで、一体のゴブリンが奇妙な高い声を上げると、武器を放り出して逃げ始めた。
カテリナちゃんが後を追いかける素振りを見せたとき
「後は追わなくていいよ」
とフレデリカが引き止めた。
「は、はい」
カテリナちゃんは素直に聞き入れて、側で見守っていた私たちの所に戻ってきた。
その見事な戦いぶりに
「カテリナちゃんって、モンスターと戦ったのって初めて?」
と私は聞いてみた。
「はい。そうです」
「すごいね⋯⋯」
私が初めてモンスターと戦ったときは、結構ビビってたんだけどなぁ。
「と、とんでもないです。私なんかキョーコ様と比べたら」
「そんなことないよ。もしかして全員戦ったのって初めて?」
一年生全員が
「はい」
と返事をした。
すごい子たちだなぁ⋯⋯
「皆さん。素晴らしかったです」
メアリから褒められると、一年生はみんな嬉しそうにしていた。
でもそんなみんなの笑顔も
「よし、次は魔石を取り出そう」
とフレデリカが言うと固まってしまった。
モンスターの身体から魔石を取り出すのは、結構エグいしね。
なんとか魔石を取り終えた一年生たちは、ゴブリンの体液で汚れてしまった手や装備している物を洗浄魔法を使って綺麗にした。
それから一息ついたあと、フレデリカの指示に従って、私たちは再び奥に向かった。
しばらくモンスターと遭遇することもなく進んでいたら、正面に無数の穴がある壁が見えてきた。
穴は人がひとり通れるくらいの大きさで、横に一メートル程の間隔を空けて十二もある。
「一年生の誰でもいいから、この穴の中から好きなのを選んで」
フレデリカの突然の振りに、一年生たちはお互いに顔を見合わせた。




