表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/105

90.第一ダンジョン

 馬車の窓から外を見ると、木々がすごい速さで流れている。かなりの速度が出ているらしい。

 神都レクスの西門から出て、しばらく大森林が続いていた。

 以前、メアリを襲った賊を捕まえたあと、歩いて帰ったことがある道だ。

 同じような風景が続いているので、襲われた場所がどこにあるのかまでは、分からないけど。

 私は視線を車内に戻して


「ダンジョンのある都市マルゴーって、到着するのに一日くらいかかるんだよね」


 と聞いた。


「途中何度か休憩を挟むからね」


 と答えてくれたのはフレデリカだった。


「そっか、マルゴーってダンジョンの他に有名なところってある?」

「そうだね。色々あるよ。でも」


 フレデリカはいったんコーヒー味のアミルム茶を一口飲み


「僕らが興味あるのは、やっぱりこれじゃないかな」


 とケーキスタンドに載っていたキルクルス──いつ見てもマカロンを思い出してしまう──を手に取ると私たちに見せた。


「お菓子?」

「そう」


 フレデリカは笑いながら答えると、一口キルクルスを食べた。


「興味ないかな?」


 もちろんそんなことはないので


「ある」


 と答えた。

 すると


「キョーコ様、遠征が終了したら自由時間がありますので、もし⋯⋯よろしければ、都市を見て回りませんか。素敵なお店もあります」


 とメアリから誘われた。


「うん。見てみたいし、行ってみたい」

「はい!」


 メアリは嬉しそうに返事をしながら、笑みを(こぼ)した。




 都市マルゴーへは馬車を引く馬を何度か休ませ途中、村のようなところで休憩もして、やっと夕方に到着した。

 早朝から出発したので、メアリもフレデリカも疲労の色が濃い。ファティの様子は普段と変わらなかった。


 マルゴーは堅固そうな城壁に囲まれた城郭(じょうかく)都市だった。

 神都は白壁にオレンジ色の屋根の明るい建物ばかだけど、マルゴーは目立つ色は使われいない重厚な建物が並んでいる。

 地味というわけではなく、歴史を感じさせる魅力ある街並みだった。


 今日はダンジョンに行かないで、宿に一泊するらしい。私たちが宿泊するところは、まるで五つ星ホテルような立派なところだった。

 前の世界では泊まったことはないけど。

 部屋はメアリが巫女姫(みこひめ)だったからか、最上階の豪華な部屋に泊まることができた。

 メアリとフレデリカは限界だったみたいで、夕食を食べてお風呂に入ったあと、すぐに寝てしまった。


 翌日は早朝から、ダンジョンに向って出発。

 マルゴーの街中を三十分ほど走り続けていたら、次第に建物が馬車の窓から遠ざかっていって、辺りが開けてきた。

 身体を窓に近づけて正面を見てみると、鉄柵が上に取り付けられた煉瓦の壁が見えてきた。

 鉄柵は無骨なものではなく、何かの植物の(つた)をモチーフにしている。

 そのまま同じモチーフの鉄製の門を通って、中に入ってゆくと、都市の中にあると思えない豊かな自然が広がっていた。


「公園?」


 私が受けた印象をそのまま口にすると


「はい。第一ダンジョン記念公園です」


 とメアリが答えてくれた。


「公園にダンジョンなんて意外だね」


 まあ、巫女(みこ)神域(しんいき)も教会の中にあるけれど⋯⋯


「モンスターが出てくることはないし。観光地にもなっているよ」


 とフレデリカが説明すると


「実際、今のような形の公園が出来てから、約百二十年くらい()つらしいのですが、その間一度もモンスターが外に出た記録はないようです」


 とメアリも続いた。


「そうなんだね」


 と私が相槌(あいづち)を打ったタイミングで、箱型座席(キャリッジ)の御者窓が開き


「第一ダンジョン入口に到着いたしました」


 とカーラさんが教えてくれた。



 停車した馬車から降りるとそこは大きな広場のようで、数十台の馬車が止まってた。

 広いと言ってもすべての馬車を止めるほどのスペースはないので、ここに止まっている馬車以外は他の場所に止めにいったらしい。

 私たちの乗ってきた巫女家(みこけ)の馬車は、出発前と違って今度は先頭の方に止められていた。

 並んだ馬車の前には数十人の学院生たちが、綺麗に整列している。


 フレデリカを先頭にして、私たちは学院生の間を進んでいった。

 列の切れ目に出るとそこから正面五メートルほど先に、芝生が大きく盛り上がっている場所が見えた。

 そこは人がひとり通れるくらいの石枠で囲われていて、その奥には下に続く階段らしきものがある。

 石枠の左右にはここを管理しているらしき人が立っていて、スキエンティア先生と何やら話をしていた。

 

 それから五分ほど経過したとき、スキエンティア先生が私たちの前まできて


「それでは、三年生と一年生は十人くらいのPT(パーティー)になって、順々に第一ダンジョンに入ってください。弱いモンスターと言ってもモンスターには違わないので、決して油断しないように。大広間に到着したら、全員(そろ)うまでそこで待機していてください」


 と指示を出した。

 すると一斉に学院生たちがガヤガヤとしだして、PTパーティーを作り始めた。


 私、ファティ、メアリ、フレデリカはすぐに、一緒のPTパーティーになったんだけど、あと六人はどうするんだろう。


「キョーコ様。あとのメンバーは私が決めてもいいでしょうか」

「うん」


 私では決め方がわからないし、メアリに任せておこう。


「はい」


 メアリは返事をすると周囲を見回し始めた。ダンジョンの入り口前の広場には、ざっと見て五、六十人の学院生たちが集まっていた。

 残りの四十人はどこか別の場所で待機しているのだろう。

 メアリはその中から目的の人物を見つけたのか、ニコッとすると


「カテリナさん」


 と決して大きいわけでもないのに、よく通る声で呼びかけた。

 メアリの視線の先をたどって見ると、頭の上についている猫耳がピクピクと動いて、声に反応しているカテリナちゃんの姿があった。


 カテリナちゃんは自分を呼んだ人物に気付くと、慌てて私たちの方に走ってくる。


「み、巫女姫(みこひめ)様。お、お呼びでしょうか」


 カテリナちゃんの姿はいつものメイド服ではなく、動きやすそうな格好をしていた。


「急に呼んでしまってごめんなさい」

「い、いえ」

「良かったら、私たちとPTパーティーを組んで欲しいのですが」

「そ、そんな。私なんかが」

「キョーコ様もいらっしゃいますし」

「えっ、あっ!?」


 私とカテリナちゃんの目が合う。


「キョーコ様! す、すみません。ご挨拶が遅れました」

「いいよ。そんなこと気にしなくて」

「い、いえ。そういうわけには」

「ほら。ちょっと落ち着いて」


 フレデリカがカテリナちゃんの肩に手を置いて、優しく声をかけた。


「フレデリカ様!」

「ほら、深呼吸」

「は、はい」


 カテリナちゃんは健気にフレデリカの指示通りにした。



 深呼吸を終えると、カテリナちゃんは多少落ち着いたのか


「巫女姫様。わ、私の友だちも一緒によろしいでしょうか」


 とメアリに聞いた。カテリナちゃんの後ろには、不安そうな表情をした同級生らしき子たちが数人いる。

 皆女生徒でローブを着ている子がほとんど、その中でひとりだけ革の鎧を装備している子がいた。


「ええ、皆さんでいきましょう」


 メアリは微笑しながら(うなず)いた。


「ありがとうございます!」


 カテリナちゃんをはじめ、同級生も嬉しそうにお礼を言った。

 こっちが四人でカテリナちゃんたちが六人だったので、これでダンジョンに潜ることができる。



 最初にダンジョンの入口に向って行ったのは、フレデリカだった。

 フレデリカって先頭を行きたいタイプなのかな。


「さあ、あとに続いてください」


 メアリが先輩らしく、後輩たちを導く。

 最後に残ったのは私とメアリとファティだった。


「キョーコ様。ファティさん、行きましょう」

「うん」


 私とファティはメアリを真ん中にして、石枠の入り口を通っていった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ