8.とこしえの大地
恐る恐る倒れているゴブリンに近付いた私は
「魔石取れるかな?」
とファティに確かめた。
「はい。ゴブリンに限らずほとんどのモンスターから、魔石は入手可能でございます」
「そうなんだ。魔石ってどうやって取り出すの?」
私にはモンスターの知識も、魔石を取り出す知識もなかった。
アストルムさんが私を新生させる時に、この世界の知識を封印したためだ。
別にそれに一切不満はなかった。
せっかく異世界に来たのにネタバレしてたら嫌だしね。
「キョーコ様。アイテムを集める雑事は私がいたしますので、自らなされることはございません」
「ううん、私に集めさせて」
「キョーコ様⋯⋯」
ファティは私の目をじっと見てきた。
そんなに熱心に見つめられると困るんだけど。
「わかった。任せるよ⋯⋯」
私は美少女の視線に耐えられず降参した。
きっとこれもメイドの仕事だというのだろう。
ファティがゴブリンから魔石を取り出すのを眺めて、少し経ったころ
「キョーコ様。魔石三個とゴブリンの装備を入手することが出来ました。装備品は大きいので私がお預かりいたします」
と言いながら私に魔石を三つ差し出してきた。
その魔石はブラックミスリルスライムから手に入れたものより、心持ち大きい気がした。色は暗い緑色をしている。
私はファティにお礼を言って魔石を受け取ると、収納魔道具にしまった。
ファティも自分の収納魔道具を持っているみたいで、ゴブリンの装備品をしまってくれた。
それにしてもファティが魔石をゴブリンから取り出すところを見ていたけど、正直グロかった。
私に出来るかな⋯⋯
「キョーコ様。今回はモンスターと戦うのはここまでにいたしましょう。お身体は疲れずとも、お心はそうはいきませんので」
ファティの言った通り、結構戦闘をこなしたはずなんだけど、身体は全く疲労を感じていなかった。
でも確かに心は少し疲れたかも知れない。慣れていないことが立て続けに起こったし⋯⋯
「わかった。そうするね」
ファティに借りていた剣を返したあと霊廟に行くために、いったんこの十階層の転移魔法陣まで戻ることになった。
ファティがモンスター避けの魔法でも使ったのか、魔法陣までモンスターは一切出てこなかった。
「それでは門の前まで転移いたします」
ファティのその言葉と同時に、足下の魔法陣が金色に明滅して暗転したと思った瞬間──
突如目の前に巨人も通れるのでは、と思われるほどの門が聳えていた。
「この先に霊廟が?」
「はい。少し先に進んだところにございます」
「あっ、でもこれってどうやって開くの?」
高さだけで十メートル以上はありそうな門なので、押して開けることは無理そうだし。
「門に手を添えていただくと、あとは自動的に開いていく仕組みでございます」
「簡単に開くんだね⋯⋯」
私はファティに言われた通り門に手を添えてみる。すると両開きの門は、静かにゆっくりと内側に開いていった。
──門を潜り抜けた先には、一瞬地上に出てしまったと錯覚してしまうような光景だった。
ここは地下だったはずだけど⋯⋯眼前には大森林が広がっていたのだ。
遠くまで見渡せているので、今いる場所はとても高いところらしい。
見上げるとそこは青空が広がりとても明るかった。
ダンジョンの正確な方位はわからないけど、北東の空の彼方に太陽のように輝いている光源が。
地下ダンジョンなので太陽なんてないはずだけど⋯⋯
ふと視線を下げると今いる高台からかなり離れたところに、森が開けた小高い丘が見えた。その丘の上には大きな湖があり、その側には神殿のような白亜の建物が、寄り添うように建っていた。
「何ここ!? すごい!」
雄大な光景に私は思わずはしゃいでしまった。
「神域とこしえの大地でございます」
ファティに神域と言われて、急に私は子供のようにはしゃいでいたのが恥ずかしくなった。
「厳かな場所なのに、はしゃいじゃってごめんね」
「いえ。キョーコ様にお喜びいただけて、幸いに存じます」
ファティはそう言うとまるで花咲くように微笑んだ。
女の私でも一瞬見惚れそうになる。
「と、とりあえず、あそこの神殿の様なところにいけばいいんだよね」
「はい。あそこが霊廟でございます。森を通れば時間がかかりますので、転移いたします」
「うん」
すぐ近くにはここからの転移を想定していたのか、転移魔法陣があった。
ファティの転移魔法は一瞬にして森を飛び越え
──私はさっきまで眺めていた丘の上に立っていた。