75.祝賀会の終わり
エルザさんとフォルティスさんは祝賀会の主役の一人なので、私が独占するわけにはいかない。
それに二人といると注目されてしまうので、話しづらいし。
「あの⋯⋯お二人と話せるのは嬉しいのですが、またの機会にしませんか」
「どうしてだ。古代級地龍のことでも話そうぜ」
「フォルティス、キョーコの言う通りまたの機会にしよう」
「何言ってやがる。お前だって話したいことがあったんじゃないのか」
エルザさんは突然、フォルティスさんの耳元に口を寄せると
「ここでは話せないこともあるだろう」
と囁くように言った。
私は聞くつもりはなかったけど、耳がよくなっているので聞こえてしまった。
「──そうだな。そろそろ貴族の相手をしないとな。大切なパトロンだ。じゃあまたな、キョーコ」
「それではまた」
フォルティスさんとエルザさんは私に別れを告げて離れていくと、あっと言う間に人垣に囲まれた。何となく若い子たちが多い。
そのアイドルのような人気ぶり見ていたら
「キョーコ」
と明るい声に呼びかけられた。
「フレデリカさん!」
「まだ、さん付け? 呼び捨てでいいのにさ」
「う、うん」
「それにしてもドレス似合ってるじゃないか」
「フレデリカ、もね」
学院の制服姿とは違い、フレデリカはドレスを着ていたのでとても大人びて見える。
「キョーコはこういう場は好きじゃないのかな? 楽しくなさそうだ」
「好きじゃないというか、こういう場に出るのは初めてで⋯⋯フレデリカは慣れてそうだね」
「慣れなのかな。子供の頃から父と母にこういう場に連れてこられたけど」
やっぱり良家のお嬢様は違うらしい。
この後、フレデリカは誰かに呼ばれて行ってしまった。
呼んだのはフレデリカ似の美人の女性で、もしかしたら母親だったかもしれない。
もう話しかけてくる人もいなかったので、ぼんやりと会場を眺めていると、巫女様と談笑しているスキエンティア先生の姿があった。
先生も来てたんだ⋯⋯
他にはガイウスさんやエミリーさんが、数人の来賓者と混じって話をしていた。
カテリナちゃんを探してみたけど、いなかった⋯⋯ルクレツィアちゃんは謹慎中だから、こういう会にも出てこれないよね。
そういえば、パルティアさんとセルウィさんの姿が見えない。
二人とも巫女の神域の最下層にたどり着いたメンバーだったはずだけど、祝賀会には来ていないらしい。
まあ、以前メアリを襲った賊の仲間だったので、出席が出来なかったんだろうけど。
それよりその二人が捕まらずに宰相と一緒に、巫女の神域に潜っていたことが気になる。
またメアリに手を出すようなら、止めないと⋯⋯
──暗いことばかり考えたくないので、フェーデちゃんを探してみると、料理が並べられているテーブルの横にいた。
そこでフェーデちゃんは何かを頬張っていた。その可愛らしい姿に思わず微笑してしまう。
あと知り合いといえば──宰相は⋯⋯話すことはないし。
──祝賀会が始まってから、すでに二時間あまりが経過していた。
ラーナ茶を五杯も飲んでしまった。さすがにもうこれ以上は飲めそうにない。
祝賀会中、ずっと立ちっぱなしだったけど身体は疲れず、むしろ精神が疲れた。
ファティもずっと立ちっぱなしだったので
「疲れてない?」
と念のために聞いてみた。
「いえ、大丈夫でございます。お気遣い痛み入ります」
「そう? 無理はしないでね」
「かしこまりました」
ファティは格闘戦も息を切らさずこなしていたから、結構体力があるのかもしれない。
「こんな壁際で二人して何を話しているのだ」
ざわつく会場の中で、その声は不思議と耳に届いてきた。
正面を見ると、大勢の貴族を従えている巫女様とメアリの姿があった。
「楽しんでくれたか」
巫女様は私を見ながら微笑した。
「こういう場は初めてで、まだよく分かりません」
私は正直に答えた。
「そうか。そろそろ祝賀会も終わる」
巫女様が壇上の方に振り向くと
「皆様。ご歓談中失礼いたします。誠に名残惜しいのでございますが、閉会のお時間になってしまいました──」
と宰相が締めの挨拶を始めた。
「──最後に一つ発表がございます。今日この日より半年後──我々はまた巫女の神域に挑戦いたします。その時こそ残された未踏破のフロアを、見事攻略する所存でございます」
この発表がされたとき一瞬会場がどよめき、その直後割れんばかりの拍手が沸き起こった。
「──これをもちまして閉会の挨拶といたします。本日はお集まりいただき、ありがとうございました」
ようやく長かった祝賀会が終わった⋯⋯
私が祝賀会を後にするときも、まだ帰るような人はあまり見られず、英雄となった人たちとの会話が熱心に続けられていた。




