74.歓談
「──以上で開会の挨拶といたします」
宰相が頭を下げると、盛大な拍手が沸き起こった。
壇上で紹介された人たちや宰相からしたら私は敵になるので、拍手するか迷ったけど拍手した。
メアリも隣で熱心に拍手しているし、私だけしないというのは変に見られる。
しばらくして拍手が止むと、一斉に来賓の人たちが移動を始めた。目的は最下層到達パーティーのところみたいだ。
メアリのところにも貴族の人たちがやってきたので、私は場所を譲って離れた。
きっとこういう機会がなければ、なかなか会話できないはずだから。
「あっ! キョーコ様──」
私が離れていくのをメアリが気づいて声を上げた。
「また後で」
と声をかけて前を振り向いた瞬間──
黄色い尖った何かが凄い勢いで 私の左頬に向かってきた。
私は慌てずにそれを顔の横でつかみ取る。
つかみ取ったものをよく見ると──それは可愛らしい黄色いパンプスで、そこから細い脚が伸びて黄色いスカートに繋がっていた。
その時、少し遅れて会場が大きくざわめいた。何が起こったのか理解したらしい。
「こんにちは」
私の顔に向かって飛び蹴りをしてきたのは、フェーデちゃんだった。
「離せ!」
私の挨拶に右脚をつかまれ、宙ぶらりんの状態になっていたフェーデちゃんが不機嫌に答えた。
「離すね」
言葉をかけて右脚から手を離すと、フェーデちゃんは器用に着地した。
「やはりあの強さは巫女の神域で、補正を受けていたわけではないのか」
それを確かめるために、いきなり飛び蹴りを見舞ってきたの⋯⋯もし私が普通の身体だったら酷いことになってるよ。
「フェ──」
「これこれ、フェーデ。何をしておる」
私がフェーデちゃんに注意しようとしたところ、背の低い人物が近付いてきた。
その古風な言葉遣いから、想像ができないような愛らしい顔をしていた。
「博士」
フェーデちゃんが振り向いて、その人物に呼びかける。
「すまんな。このフェーデはわしが生み出したのじゃが、なかなか腕白でな」
博士と呼ばれた人物が、私に話しかけてきた。
「わしはマーキナーというものじゃ」
「楽堂響子です」
「しかしフェーデが言っていたことは、本当のことかもしれんの。お主がランク10を倒したというのは。不意をついた蹴りを容易く防ぐのじゃからな」
思わぬ形で、したくもない強さのアピールをしてしまったらしい。つい普通に蹴りを受け止めてしまった。
「博士。私は嘘言ってない。すべてほんとだ!」
「うむ。そうじゃな」
マーキナー博士は怒った様子のフェーデちゃんの頭を撫でながら
「一体その尋常ならざる力を、その若さでどうやって得たのじゃ⋯⋯見たところお主はまだ十代に過ぎぬじゃろう? 一朝一夕で得られる力ではあるまい」
と私に鋭い眼光を向けた。
私の力は受け継いだだけで、実は一朝一夕なんです。とは言えないし⋯⋯
「──まあ、いいじゃろ。強さの秘密を喋る愚か者はおるまい。フェーデ、ついてくるのじゃ。あっちに酒がある」
「うん!」
「またの。キョーコとやら」
マーキナー博士とフェーデちゃんは、料理のあるテーブルの方に行ってしまった。
その後、当然のことながら誰も私たちの所にやって来なかったので、手持ち無沙汰になってしまった。
巫女様もメアリも来賓に囲まれて、その対応に忙しそう。
仕方ないので
「何か食べる?」
と私は後ろに控えているファティに、向き直って聞いてみた。
「いえ。私はメイドでございますので」
「じゃあ、私もいいや」
別にファティも食べてもいいじゃんと思ったけど、無理に食べさせるわけにもいかないし。
「私のことはお気遣いなさらず、ご自由にお召し上がりください」
「うん。でもお腹も減ってないし、それにここで食べるには、なんか落ち着かないから」
「では、お飲みものだけでもお持ちいたします。何かいただくのが礼儀でございますので」
「ああ、そうだよね」
ファティは料理が並べられているテーブルに一人で行ってしまった。
ここはファティに任せておこう。こういう場のルールを知らないから。
私は人々の邪魔にならないように壁際に移動した。
それから程なく、ファティがティーカップを載せたお盆を持って戻ってきた。
「キョーコ様。どうぞ」
「ありがとう」
ファティからティーカップを受け取って一口飲むと、すっかりお馴染みになったラーナ茶の味がした。
「やっぱり、キョーコじゃねえか!」
私がお茶を味わっていたら、大きな声で呼びかけられた。
振り向くとそこにいたのは赤髪を短く刈り込んだ精悍な顔つきの
「フォルティスさん」
だった。
「まさか君がいるとは」
そこへクールな声が聞こえてきたので、フォルティスさんから視線を外すと銀色の妖精が目の前に──いやエルザさんがいた。
エルザさんは黒のアフタヌーンドレスを身にまとっていて、彼女のクールな美しさをより引き立たせている。
「エルザさん。そのドレスとても似合っています」
エルザさんは微笑すると
「ありがとう、キョーコ。君も似合っている」
と言葉を返してきた。
「ありがとうございます⋯⋯」
ドレス姿を褒められるのは慣れそうにない。
「祝賀会に出席しているってことは、お前は貴族の令嬢なのか」
フォルティスさんが大きな勘違いをしていたので
「いえ、違います。巫女姫様の護衛をしているので、出席が許されたんです」
と伝える。
「巫女姫様の護衛だと、どういうことだ」
「それより、お二人と話したい人たちがいるみたいですが⋯⋯」
ここから少し離れた場所に、さっきからこっちを見ている人たちがいた。
「少しくらい待たせておけばいい」
フォルティスさんがチラッと後ろを振り向いた。




