73.祝賀会の始まり
学院に通い始めてから一週間経ち、祝賀会の日がやってきた。
ドレスに着替えるためにメアリに案内されたのは、ウォークインクローゼットだった。ただその規模が尋常じゃない。
数百着はあるだろう洋服やドレスが、部屋の端から端に取り付けられたハンガーパイプに掛けられて並べられていた。
それでも狭いということはなく私とファティ、メアリ、さらにメイドさん達が中に入っても余裕があるほど広い。
「キョーコ様。少々お待ちください。え〜と、巫女様から戴いたドレスはどこだったかしら」
目的のドレスを数百着あるこの中から探すのは大変そう⋯⋯
「巫女姫様。私共がお探ししますので⋯⋯」
メイドさんが困ったようにメアリに声をかけると
「いえ、私が探したいのです」
とその申し出を断った。
「──ありました!」
幸い目的のドレスはすぐに見つかる。
メアリがハンガーにかかっていたドレスを取って私に見せた。
それは紺のアフタヌーンドレスだった。
このドレス、私に似合うのかな⋯⋯
私と巫女様の背格好はそれほど違わないのか、ドレスは違和感なく着ることができた。
「とってもお似合いです」
「キョーコ様は何をお召になっても、お似合いでございます」
メアリとファティから褒められて、少し恥ずかしい。
「ありがとう⋯⋯」
靴も紺色のパンプスに履き替えてやっと着替えは終了した。
それからメアリに促されるまま、姿見の前に立ってみると──そこ映っていたのは黒髪のボブカットの少女がアフタヌーンドレスを着ている姿だった。
この私のドレス姿は似合っているのだろうか⋯⋯ドレスはまったく着慣れていないので、落ち着かない。
メアリも薄緑のアフタヌーンドレスに着替え終えて
「キョーコ様。いかがでしょうか⋯⋯」
と私に可憐な姿を見せてくれた。
「とても似合ってるよ」
メアリはすこし頬を赤く染めると微笑んだ。
「それではキョーコ様。行きましょう」
「メアリ、ちょっと待って。ファティにもドレスを」
「恐れながら、私はこのままで構いません」
思いもよらず、ファティにドレスを着るのを断られてしまった。
「えっ!? どうして?」
「私はメイドでございますので」
「──まあ、無理にとは言わないけど⋯⋯」
ファティの表情と口調から強い意志が感じられたので、ドレスを着せることは諦めた。
祝賀会の場所は謁見の間を少し通り過ぎた所にあった。
会場の中に入るとその広さに圧倒される。
謁見の間もとても広かったけど、この会場はその倍はありそうだった。
その広い会場に数百人くらいの人々が、立って会話をしている。
入ってきた私たちに気付いたのだろう、その視線が一斉にこっちに集中した。
唐突に会話が途切れて静寂が訪れる。
私たちはその値踏みするような視線の中を──私は隣を歩くメアリの歩調に合わせて──進んでいった。
次第に会場がまたざわついてきて──
「巫女姫様のお隣を歩いているのは、誰なんだ」
「あの黒髪は以前、謁見の間で暴れた奴じゃないのか」
「どうしてここに?」
「巫女姫様。素敵です⋯⋯」
「あの隣の女、一体なんですの」
新生してからすごく耳が良くなったので、会話が色々聞こえてきてしまう。
「あの後ろの金髪のメイド。本当に人間か、あんなに美しい人間見たことがない⋯⋯」
「まるで妖精見たい⋯⋯」
「巫女姫様。あんなに楽しそうにして、一体あの女性は誰なのかしら」
「巫女衆が手も足も出なかった程の強さらしい」
「まさか! それは眉唾物ではないですか」
「いや、それは本当ですぞ。私は実際にその場にいて──」
なんか色々言われてるけど、気にしないようにしよう。
私たちが進むに連れて波が引くように、貴族の人たちは行く手を譲ってくれた。
その人波を通り過ぎると正面に一段高い場所があって、そこで巫女様が椅子に座っているのが見えた。
着こなすのが難しそうな赤いアフタヌーンドレスを着用して。
似合っていないというわけじゃなくて、その逆だった。
ふと巫女様の隣を見ると、宰相が侍っていた。
私は謁見の間であったことを思い出して、また同じようになるんじゃないかと内心緊張する。
また跪けとか言われるかな⋯⋯
なるべく宰相を視界に入れないように進み、巫女様と話せるくらいの距離に近付いたとき
「貴様⋯⋯」
と宰相は私を睨みつけた。
すると巫女様が振り返らず軽く左手を上げて
「言葉を慎め。私が招待した客人だ」
と反論を許さない口調で言った。
宰相は苦々しい顔で私を見るものの、押し黙った。
「ふふ、似合っているではないか。キョーコ」
巫女様が少しからかってるんじゃないかな、という感じで褒めてきた。
「ありがとうございます⋯⋯」
「メアリもよく似合っている」
「ありがとうございます」
「何だ。お前はドレスを着なかったのか?」
巫女様は私の後ろにいたファティに視線を向けると、声をかけた。
「私はメイドでございますので」
「そうか」
巫女様はファティの返答に一言だけ返すと、私に視線を戻し
「そう、緊張しなくてもいい。今日の祝賀会は堅苦しいものではないからな。そこのビュッフェで好きなものを食べるがいい」
と言いながら会場の一方に振り向いた。
その視線を追うと会場の一角に、長方形のテーブルがありその上に様々な料理が置かれていた。
どうやら今回の祝賀会は、立食パーティーらしい。
「キョーコ。楽しんでいってくれ」
「はい」
私の返事に巫女様が頷いたあと宰相の方に向き
「そろそろ時間だ。さあ、来賓に挨拶をせよ。皆そなたの言葉を待っている」
と言葉をかけた。
「はい。巫女様。今回はこのような会を開いていただき、誠にありがとうございます」
「当然のことをしたまでだ。それだけの価値がそなた達の成したことにはある。今まで未知であった巫女の神域から、国宝となる数々の秘宝を持ち帰ったのだからな」
「ありがたき幸せ」
巫女様の賛辞に宰相は感激した様子で頭を下げる。
この後、私はメアリに促されて壇上を下り、貴族の人たちの先頭で開会の挨拶を待つことになった。
それからすぐに、巫女様の横に整列を始めた人たちがいた。
私も知っている人がその中に混じっている。
壇上に全員が揃ったところで
「本日は祝賀会にお集まりいただき、誠にありがとうございます。皆様と巫女の神域での発見を喜べることは、望外の至りです」
と宰相の開会の挨拶が始まった。
「それではまず、命の危険を顧みず、最難関のダンジョンに立ち向かった勇者たちをご紹介したいと思います」
それから壇上にいる人たちが一人ずつ紹介されていった。




