65.学舎
馬車から降りて最初に目に入ってきたのは、とても大きな館だった。
その長い年月に耐えてきたような外壁が、私に風格のようなものを感じさせる。
この館がレクス貴学院の学舎らしい。周囲を見回して見ると、広大な敷地が広がっていた。
綺麗に整備された庭園の中には、学院の名称にもなっているレクスさんの立像があった。
本で得た知識によると、昔の大貴族の館を改装して学舎にしたという。
レクス貴学院は貴族の子供だけではなく成績優秀な者は、その身分を問わず入学することができると謳われていた。
でも生徒数は百人と決まっているので、大変狭き門だ。
しかも貴族以外で入学できるのは三十名だけなので、貴族以外が入学しようとしたら、とても困難な道になる。
それでも入学しようとする人たちは後を絶たない、何故ならここに入学できなければ貴族以外、出世の道は皆無らしいので。
貴族主体の独裁国家なのに結構開かれている学院だと思うけど、半数以上も席を確保しているなんて、まだまだ貴族の権力は強いらしい。
「それではいってらっしゃいませ」
カーラさんに見送られて、私たちはレクス貴学院の学舎に向った。
かつて大貴族の館だった学舎の中は、広々とした通路の両側に太い柱が並び、高い天井からは小さなシャンデリア型の魔道灯がいくつも下っていた。
内装はヴェスタル宮殿の豪華絢爛さに比べたら地味だけど、こういうのも私は好きだ。
通路には私たちの他にも、学院生らしき人が歩いていた。
メアリが目立つ存在だからか、学院生たちの視線がこっちに集中している気がする。
「おはようございます」
女生徒の一人が挨拶をしてきたので
「おはようございます」
とメアリも優雅に挨拶を返した。私も一応挨拶を返す。
このあとも数人と朝の挨拶を交わして、私たちは通路の一番奥にあった階段のところまでたどり着いた。
──ここを上ると思いきや
「こちらです」
とメアリは右手にある通路を案内する。
その後について行くと、通路の左側の壁にいくつものドアが等間隔に並んでいるのが見えた。
メアリは通路を進んでいき、一番奥にあるドアをおもむろに横に引く。
そのままメアリが中に入って行ったので、私とファティもその後に続いた。
ドアの先は段のある半すり鉢状のような場所になっていて、その段上にはいくつもの長机と長椅子が置かれていた。
段の一番下には黒板のようなものもあり、まるで大学の講義室のようだ。
まあ、私は元女子高生なので大学の講義室は、テレビでしか見たことがないんだけど。
とにかくここが学院の教室なのだろう。
その教室にすでに何人かの学院生たちが集まっていて、メアリが机と机の間にある階段を下り始めると
「おはようございます」
と元気な挨拶をしてきた。
メアリは可憐に挨拶を返しながら、下から三段目の空いている椅子に向った。
「キョーコ様。どうぞこちらにお座りください」
メアリが椅子を手で示したので、私はそこに腰を下ろした。メアリも私の隣に腰を下ろす。
ファティはというと
「ファティさん。目立ちますので座ってください」
とメアリに促されて座るまで、立ったままだった。
──間もなく続々と学院生が教室に集まってきて、がやがやと話し声が大きくなっていく。
私たちがいる席の方に、チラチラと視線を向ける学院生たちもいた。
多分、見知らぬ私とファティのことが気になっているのだろう。
「おはよう」
「おはよう。フレデリカ」
メアリが誰かに挨拶を返していたので見ると、一人の女性徒が私たちのそばに近付いてくる。
そのボーイッシュな雰囲気の美少女は、そのままメアリの隣に腰かけた。
「おはよう」
メアリ越しにその美少女が私を見て、快活に挨拶をしてきた。
私にも挨拶してくると思わなかったので
「お、おはようございます」
とちょっと焦って声がつっかえてしまう。
「キョーコ様。彼女はフレデリカ・フォン・オリーゴ。私の友人です」
「よろしく〜」
メアリに紹介されたそのフレデリカさんという美少女は、とても気さくな感じだった。
「よろしくお願いします」
この挨拶のあとフレデリカさんはまたメアリと話し始めたので、黒板の方に視線を向けると小さな人物が目に入ってきた。
──子供? どうしてこんなところに子供が?
その小さな人物は、階段を下りるとそのまま黒板の前にある教壇に立った。
背の低さをカバーするように教壇は高くなっているらしい。
教壇に立ったってことは⋯⋯もしかしてだけど、そういうことだよね。
人を見た目で判断しちゃいけないけど⋯⋯
「あの方はこのクラスを担当しているスキエンティア先生です」
私が多分、先生なんじゃないかなと思っていたら、メアリが裏付けしてくれた。
「ずいぶん若い先生だね⋯⋯」
「確か二十代前半だったと思います」
ツッコミどころが多すぎるんだけど⋯⋯
「おはようございます。今日は皆さんにこれから共に学ぶことになる新しい仲間を、ご紹介したいと思います」
私がまだ驚きから抜け出せないでいると、スキエンティア先生の話が始まり
「ガクドウ・キョーコさん、ファティさん、前に来てください」
と予想外のことを言われた。




