64.学院へ
──何か眩しいような気がしたので、目を開くと部屋がとても明るくなっていた。
窓に掛かっている白いレースのカーテンから、光が差し込んでいる。
どうやらもう朝らしい。
私はゆっくりと上体を起こして、左右を見るとファティと巫女姫様はまだ眠りの中にいた。
それはそうと二人の寝顔はとても可愛いかった。ファティはまるで妖精のよう。
そういえば一緒に巫女の神域で生活していたのに、ファティの寝顔を見たのは今回が初めてだ。
巫女姫様の寝顔を見るのも当然初めてだけど。
まじまじと寝顔を見ていたら、ファティの長い睫毛がピクッと動いて、閉じられていた目が開いた。
一瞬の間のあと、こっちがびっくりするくらいの勢いで跳ね起きて、正座をして私の方に向き直り
「申し訳ございません。主人がご起床されているというのに、惰眠を貪るなどメイド失格でございます」
と頭を下げた。
「い、いや。気にしないで、私も今起きたばかりだし」
ファティが起きる直前まで、顔を眺めていたのでどぎまぎしてしまった。
あれ? ファティが正座をしている。どうして正座を知っているんだろう。
私はこっちの世界で正座をしたことないし、私の真似をしたわけでもなさそう。
この異世界でも正座をする人たちがいるんだろうか。
背筋がピンと伸びて、とても綺麗な正座だ。私より綺麗な正座をしている。
「キョーコ様⋯⋯」
その小さな声につられて顔を横に向けると、巫女姫様が起き上がっていた。
どうやら起こしてしまったらしい。
巫女姫様は女の子座りをしていたので、その姿はとても可愛らしいかった。
その瞳はまだぼんやりとしていて、まだ眠そうだ。
みんな目覚めたのを機に、身だしなみを整えて、みんなで朝食を食べに一階の餉の間に向かった。
餉の間にはすでに巫女様が来ていたので、私たちは挨拶をしてから席に着いた。
朝食のメニューはパンとサーモンのカルパッチョのようなもの、それからヴィシソワーズのようなスープという、前の世界では私の朝食に決して出なかったものだ。
朝からこんな手間がかかりそうな食事を作ってくれたメイドさんには、感謝をしなければ。
朝食を食べ終えると、私、ファティ、巫女姫様の三人は、学院に向かうため馬車が止まっているヴェスタル宮殿前に移動した。
「おはようございます」
馭者を務めているカーラさんが、馬車の側に立って挨拶をしてくれた。
私たちも挨拶をしてから、箱型座席に乗り込む。
預けていた収納魔道具は、カーラさんが返してくれた。
その際にファティに借りていたミスリルコンの剣は返却する。
迷宮探索者初心者の私が、本来持っていていいものじゃないしね。
昨日とは違って空は快晴で、学院に行くには良い日だ。
「本日よりキョーコ様は私の同級生となりますので、私に対して敬語は必要ありません」
私とファティの正面、後部座席に座っている巫女姫様が、突然そんなことを提案してきた。
困るなぁ⋯⋯いきなりタメ語って言われても。
「私の同級生も敬語は使っていませんので、キョーコ様がお使いになっているとその⋯⋯」
「わ、わかりました⋯⋯わかった」
巫女姫様が訴えるような目で私を見てきたので、その圧に負けてタメ語に言い直した。
「でも巫女姫様は私に対して、敬語を使ってると思うんだけど」
「メアリです⋯⋯」
「あ⋯⋯うん。メアリ」
巫女姫様──メアリは呼び捨てにされると
「はい」
と嬉しそうに返事をした。
それからメアリはニコニコするばかりで、私に敬語を使っている理由を言ってくれなかったので
「あの⋯⋯?」
と続きを促してみた。
「あ、失礼しました。それはキョーコ様が私の先輩だからです」
「同級生なのに?」
「同級生ですけど、お姉様でもあります」
「そう⋯⋯」
よくわからないけど、メアリの機嫌が良さそうだし、まあいっかぁ。
「そうだ。ファティも私たちの同級生になるんだから、敬語はなしね」
「申し訳ございません。私はメイドでございますので」
少しの間もなく、ファティがタメ語になることを拒んだ。
私は隣に座っているファティの目を、メアリの真似をして覗き込んでみた。
ファティはその形容し難いほど美しい青い瞳で、見つめ返して──
「こほんっ」
わざとらしいメアリの咳払いが聞こえたので、私はファティから視線を外した。
どのくらい見つめ合っていたのかわからないけど、客観的に考えれば結構恥ずかしい⋯⋯
「え、え〜と、私も早くその制服着てみたいな」
私はばつが悪いのをごまかすために、メアリに話を振った。
学院には制服があるらしくて、メアリも学院に通う日は着ることになっていった。
私も着ることになるんだけど、合うサイズがなかったので今は着ていない。
後日、新しい制服が仕立てられるのでそれを着ることになっている。
「私もキョーコ様の制服姿を早く見たいです」
青色をベースにした制服はメアリによく似合っていた。
今は少し暑い季節らしいので長袖じゃ結構暑いはずだけど、貴族の人たちは肌が見えるような半袖は着ないのだろう。スカートもロングスカートだし。
私も長袖のブラウスにロングスカートで似たような格好だけど、暑さはまったく感じず、体感温度は春のような快適さだ。
それはこの身体になったおかげだけど、季節の暑さを感じられないのは良いことなのか悪いことなのか⋯⋯
でも古代級地龍のウヌスさんの熱線に耐えられたのは、間違いなくこの身体のお陰だ。
そう感謝していたら、頭上にある馭者の連絡窓が開き
「レクス貴学院に到着いたしました」
とカーラさんが知らせてくれた。




