63.巫女家のお風呂
しばらく巫女姫様の客室で寛いでいると、ドアがノックされる音が響いて
「失礼いたします。ご入浴のお時間となりました」
とメイドさんが伝えにきた。
巫女姫様がソファーから立ち上がり、私の方を振り向くと
「キョーコ様?」
と不思議そうに声をかけてきた。
「はい?」
「一緒に行かないんですか」
「お風呂でしょうか?」
「はい」
どうやら巫女家のお風呂は、一人ずつ入るものではないらしい。
──浴場は巫女姫様の部屋から、いくつものドアと通路の角を何度か曲がった先にあった。
初めて向かう場合には、一人で辿り着けそうにない。
浴場の前にある脱衣所はとても広く、快適に着替えができそうだった。
ふと巫女姫様が視界に入ると──メイドさん達が服を脱がしていた。
私はその瞬間、何故か慌てて目を逸らしてしまう。
同性なんだけど⋯⋯
「お召し物をお脱ぎになるのを、お手伝いたします」
いつの間にかメイドさんが私の側にいて、驚くことを言った。
「い、いえ。自分で脱ぎますので」
私が断るとメイドさんは、少し意外そうな顔をした。断られるとは思っていなかったのかもしれない。
でもそれ以上は何も言わず、頭を下げると引き下がってくれた。
ふとファティのことが気になったので、後ろを振り向いたら、その当人と目があった。
ファティは私に見られていることに気付いて
「お召し物をお脱ぎになるのを、お手伝いたします」
とさっきメイドさんが言ったことを、そのまま繰り返した。
私は思わず
「今までそんなこと、一度も言ったことないでしょ」
と苦笑すると、ファティも微笑を浮かべた。
「ファティもほら、一緒に入るんだからね」
ファティは意表を突かれたような顔をしたあと
「かしこまりました⋯⋯」
とあまり乗り気じゃない返事をした。
私は巫女姫様を待たせてしまっていたことに気付いて、急いで服を脱いだ。その後、巫女姫様、ファティと一緒に浴場に向かった。
巫女家の浴場は広くて、総石造りのとても豪華なものだった。
石材は何が使われているか分からないけど、大理石のような高級なものだと思う。
湯口はゴブレットの形をしていて、そこから絶えずお湯が流れ出ていた。
それよりも驚いたのはメイドさんがメイド服を着たまま、巫女姫様の身体を洗っていたこと。
それが普通なのか、巫女姫様はされるがままになっていた。
私の方に一人のメイドさんが近付いて来たけど──遠慮しよう⋯⋯
湯船に浸かっていると、突然巫女様が入って来た時は驚いた。
でも誰よりも先に出て行ってしまったけど。仕事が忙しいのだろうか。
私たちはお風呂に満足してから、巫女姫様の部屋に戻って一息ついた。
まったりした時間もあっという間に過ぎていき、明日から学院なので遅くならないうちに就寝することにした。
そこで問題なのは、私とファティがどこで眠るかということなんだけど⋯⋯
巫女姫様の寝室には当然というか、ベットは一つしかなく。
「え〜と、私たちはどこで寝れば⋯⋯」
「それはこのベットにみんなで」
巫女姫様が手を差し向けたベッドは、天蓋付きのいかにも貴族の使っている高級そうなものだった。
私たち三人なら余裕で横になれるほどの大きさ。
「いえ、私にはそちらにあるソファーをお貸しいただけないでしょうか」
ファティが言うように、巫女姫様の寝室には三人掛けのソファが一脚置かれていた。
「いや、皆で一緒のベットで寝ようよ。巫女姫様もそう言ってくれているし」
ファティを一人でソファーに寝かせるなんて、気が進まない。
「かしこまりました⋯⋯」
多少躊躇しつつも、ファティは私の意見を聞いてくれた。
それから巫女姫様に促されて、私が先にベットに入り、そのあとに巫女姫様が続こうとした時
「恐れいります」
とファティから呼び止められた。
「キョーコ様と巫女姫様のお休みになる場所は、逆の方がよろしいかと存じます」
「何か問題があるの?」
「そ、それはその⋯⋯」
いつもは直ぐに答えが返ってくるのに、珍しくファティは口ごもった。
「わかりました。私はそれで構いません」
巫女姫様は何故か理解したみたいだけど、私は一向にわからない。
けど巫女姫様がそれでいいのなら。
「じゃあ、私が真ん中で寝ればいいんだね」
「恐れいります」
ファティは微笑すると頭を下げた。




