57.お茶会再び
私とファティは以前館に来たときと同じ客室に通された。
私の隣にはファティが、テーブルを挟んでカーラさんとカテリナちゃんがソファに座る。
カーラさんは始め馬車で待つ気だったけど、それだと落ち着かないと言って、お茶会に付き合ってもらう。
みんなでお茶会をした方が楽しいし。
テーブルにはカテリナちゃんが用意してくれたお茶と、美味しそうなお菓子が置かれている。
カーラさんだけブラックコーヒーのような物を飲んでいた。
私たちはさっぱりして美味しいラーナ茶。お菓子はマカロンに形が似ているキルクルスとチョコレートケーキだった。
「申し訳ございません。マグヌスは本日、仕事で外出しております」
カテリナちゃんは主人が館に不在の理由を話した。
「忙しい人なんだね」
この前来たときも確か伯爵は留守だった。
「キョーコ様。一つ伺ってもよろしいでしょうか」
カーラさんが唐突にそんなことを言うので、私は少し緊張してしまった。
一体何を聞かれるんだろう⋯⋯
「キョーコ様がランク10を倒されたという噂は、本当ですか?」
聞かれたことは予想外──ではなかった。あの最下層での戦いは目撃者が多かったので、少しは噂くらい流れるだろうと思っていたので。
でもなんて答えればいいんだろう。嘘はつきたくないし⋯⋯でも本当のことを話しても信じてもらえるかな。
「──特に深い意味はありません。ただの個人的興味です」
私がすぐに口を開かなかったので、カーラさんは弁解するように言葉を続けた。
「成り行き上、そうなってしまっただけで──」
「では、噂は本当だったんですね!?」
カーラさんが私の返答の途中で、少し興奮した様子で言葉を被せてきた。
「えっ!? キョーコ様。ランク10の方に勝ったんですか! すごい! すごいです!」
そこにカテリナちゃんも、満面の笑顔で会話に加わる。
「当然でございます。キョーコ様にかかれば、ランク10など物の数ではございません」
ファティが煽り立てるようなことを口にした。
カテリナちゃんの瞳は、憧れの人を見るかのようにキラキラしている⋯⋯
「巫女衆を軽くあしらわれた時から、お強いと思っておりましたが⋯⋯まさかランク10を倒されるほどとは、お見それしました」
カーラさんが持ち上げるような発言をした。
なんて言えばいいのか⋯⋯
「いえ⋯⋯」
結局私の口から出たのは、この一言だけだった。
「キョーコ様は控え目な方なんですね」
とカーラさんが言うと
「そこも素敵です。キョーコ様」
とカテリナちゃんが、こっちが恥ずかしくなるようなことを口にした。
私は恥ずかしさをごまかすために、ラーナ茶を一口飲み、それからチョコレートケーキを一口食べた。
チョコレートの幸せな甘さが口の中に広がる。
「このチョコレートケーキ、美味しいね」
「はい。ありがとうございます。天階甘味の新作のチョコレートケーキです」
私の何の捻りもない感想に、猫耳をピクピク動かして嬉しそうに、笑顔で答えるカテリナちゃん。
「美味しいですよ。カテリナ」
「あ、ありがとうございます」
ファティもチョコレートケーキの感想を伝えると、カテリナちゃんは慌てたように返事をした。
「カテリナちゃんはどんなスウィーツが好きなの?」
今回もご馳走になってしまったので、私も何かお返ししたい。
まあ、それには稼がなくちゃいけないけど⋯⋯
「は、はい。私はパンケーキです」
「あー、パンケーキもいいよね」
「で、では、次回のお茶会の時までには、ご用意しておきます」
「あっ、ごめんね。別に催促したわけじゃないから、気にしないで」
「い、いえ」
「天階甘味のパンケーキって美味しいの?」
天階甘味は有名なスウィーツ店らしいので、ちょっとだけ気になる。
「はい。生地はふわふわ、クリームはたっぷりで、新鮮な苺、ベリーがのっていて一口食べると、天階を昇るような気持ち──」
ここまでうっとりするような表情で話していたカテリナちゃんは、ハッとして
「申し訳ございません」
と頭を下げてきた。
「謝る必要ないよ。それにしても美味しそうだね」
私の言葉にカテリナちゃんは恥ずかしそうに身体を縮めていた。
「カーラさんはどんなスウィーツが好きですか」
私にカテリナちゃんをこれ以上恥ずかしがらせる趣味はないので、話をカーラさんに振った。
「私はキルクルスです。甘すぎないので」
カーラさんはブラックコーヒーのようなものを飲んでいたので、甘党ではないかな。
──会話をして飲んだり食べたりしていると、あっという間に時間が過ぎてしまった。
まだ色々と話したいことはあったけど、あまり長居はできないのでお茶会を終了した。
そのまますぐにヴェスタル宮殿に向かうことになり、カーラさんは馬車を館前まで回すために一足先に部屋から出ていく。
それから私たちも五分くらい経ってから館から出ると、ちょうどカーラさんが操る馬車がやって来た。
「よろしかったら、またお茶会にいらしてください」
カテリナちゃんが眩しいほどの笑顔で誘ってくれた。
「うん。またくるね」
「はい。お待ちしております」
ファティが馬車の箱型座席のドアを開いたので、先に私が乗り込みファティもあとに続いた。
馭者の連絡窓から
「出発いたします」
とカーラさんの合図が聞こえた。




