表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/105

53.惨劇

 私は心底気が進まなかったので、もう一度頼んでみることにした。


「皆さん、お願いします。諦めてくれませんか。もう一度言いますが、あの門の先に行けば確実に全滅します。ここから退()いてくれたら、私たちは一切手を出しません」

「諦められるわけがなかろう! 最下層に辿り着くまで、どれほどの犠牲があったか貴様にわかるか。我々はその者らの犠牲を無駄にしないためにも、財宝を手に入れなければならんのだ!」


 まるで狂信的な目をして、宰相(さいしょう)は怒鳴り返してきた。


「どうして⋯⋯今より強くなってまた挑戦すればいいじゃないですか。死んじゃいますよ」


 ──宰相はもう私の(うった)えに言葉を返さなかった。


「エルザさん! みんなを止めてください」


 宰相では話が通じないので、この人ならと期待して声をかける。


「すまないな」


 エルザさんはそう言いながら剣を構えた。



 ──退()いてもらうには、覚悟を決めるしかなさそう⋯⋯


「ここからは本気で、斬るつもりでいきます。やめませんか」


 ──再び無言⋯⋯



 私は剣を構え覚悟を決める。



「行きます⋯⋯」



 私は脚に力を入れて、床を蹴って前に出た。

 (またた)きさえできない程の速さでフォルティスさんに接近



 ──()()()()()


 恐ろしくなるほど剣は抵抗を感じなかった。

 すかさずその側にいたエルザさんに振り向き


 ──左胸に剣を()()()()()


 剣が胸鎧(きょうがい)ごと背中側まで(つらぬ)く。

 私は剣をエルザさんの胸から引き抜くと、フェーデちゃんのところまでいき



 ──左腕で小さい身体を両腕ごと抱え込んだ。

 さすがに幼女のような姿をしているフェーデちゃんを斬ることはできなかった。


「おとなしくしててね」


 私がお願いするとフェーデちゃんは拘束から逃れようと両腕に力を入れ、両足をバタバタさせて蹴ってきた。


「くっ、外れん」

「フェーデちゃん、お願い。おとなしくしててね⋯⋯」


 私がもう一度念を押すように言うと


「わかった⋯⋯」


 とフェーデちゃんは渋々(しぶしぶ)という感じで聞いてくれた。


 ──そこに突如セルウィさんが現れ、大剣を振り下ろす。

 私はそれを剣で払い上げると、袈裟懸(けさが)けに斬り返した。


「ぐはっ」


 セルウィさんは吐血すると、左肩から右脇腹にかけて大量の血が吹き上がった。

 それでも私に剣を振ろうとした瞬間──糸が切れた人形みたいに崩れ折れた。



「きゃあああぁっー」


 突然、絹を裂くような悲鳴が響き渡る。

 悲鳴を上げたのはフェーデちゃんじゃなかった。

 仰向(あむけ)けになって動かなくなったセルウィさんから視線を上げて見ると、エミリーさんが青()めて座り込んでしまっていた。


「きょ、キョーコ。お前なんてことを⋯⋯」


 ガイウスさんが悲痛な面持ちで口を開いた。


「キョーコ様をお責めになるのは、筋違いでございます。キョーコ様が何度もご忠告なされたのに、それを無視してこのような結果を選択したのは、あなた方ではございませんか」


 ファティが不愉快だといった感じで言葉を返した。

 ガイウスさんは何も言わずに押し黙ってしまう。

 私はまだ戦意がありそうな人がいないか探してみると、もう誰も武器を構えてはいなかった。

 私は拘束していたフェーデちゃんを解放して、剣を(さや)に納める。フェーデちゃんは大人しくしてくれた。

 私はもう一度対話を試みるため


「あの⋯⋯貴方がこのパーティーのリーダーじゃありませんか?」


 と宰相(さいしょう)に話しかけた。


「そ、そうだ」


 宰相は少し顔を強張(こわば)らせて答えた。


「終わりにしましょう。門を通るのは(あきら)めてください。そうすれば私はこれ以上、戦う気はありません」

「⋯⋯わかった」


 完全には納得してなさそうだったけど、宰相は引き返すことを了承してくれた。


 この時パルティアさんが私の横を通ってセルウィさんの側に行くと、膝をついて身を屈めた。

 セルウィさんの開いていた目をその手で閉じて、手を組ませる。

 他の人たちもエルザさんとフォルティスさんのところへゆっくりと近付いていく。

 この光景を見て私はいたたまれなくなった。


「キョーコ様。転移いたします」

「うん。お願い⋯⋯」




 ファティの転移魔法で、私はとこしえの大地に続く門の前まで戻ってきた。

 門のすぐ前には私とファティ、そこから少し離れた場所に宰相(さいしょう)のパーティーがいた。

 フォルティスさん、エルザさん、セルウィさんは床に並んで横たわっている⋯⋯

 皆、悲壮な顔をして無言で(たたず)んでいた。


「貴女を絶対に許さない!」


 沈黙を破ってありったけの憎悪を込めた様な、パルティアさんの言葉が私に叩きつけられた。

 こんなことを今まで面と向かって誰にも言われたことがなかったので、胸に鋭い痛みが走るような衝撃を受けた。


「キョーコ。これは取り返しがつかない⋯⋯お前は迷宮探索者(ダンジョンサーチャー)の資格を剥奪されるだけじゃなく、ここに横たわっている三人が所属しているギルドや仲間、また国から追われることになる。残念だ⋯⋯俺はお前に期待していたんだ⋯⋯」


 ガイウスさんが私のために心から悲しんでくれているのが、その震える声から理解できた。

 私のことをそこまで買っていてくれたなんて⋯⋯

 少しうるっと──


「ぎゃああぁぁっー」


 しそうなところに突如、耳をつんざくような悲鳴がして感傷的な気分が吹き飛んでしまった。


「ひいぃぃっ、ぞ、ゾンビー!」


 どうやら悲鳴を上げたのはエミリーさんらしい。

 その原因は横たわっていたエルザさん、フォルティスさん、セルウィさんの三人が突然目を開けて、おもむろに動き出したからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ