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52.メテオシューティング

 放たれた矢はまさに流星だった。

 輝く尾を引きながら一直線に私に向かってくる。

 そのスピードは今まで見た中で最速!

 まだフォルティスさんとセルウィさんの攻撃を防いでいたので、剣で斬るにはとても間に合わない。

 出来ればあまり人間離れしたところは、見せたくなかったんだけど⋯⋯


 (やじり)が私の身体に触れる寸前──


 空いている左手で矢のシャフトをつかんだ。

 矢は寸分の狂いなく私の左胸に飛んで来ていた。

 金色でとても高価そうな矢だったので、収納魔道具(マジックコッファー)にしまった。あとでパルティアさんに返そう。


「──あ、ありえない⋯⋯俺でさえ視認できないパルティアのメテオシューティングを、つかむとは」


 フォルティスさんが剣を構えるのも忘れて、放心したように言った。

 矢をしまう余裕があったのも、誰も追撃してこなかったから。

 そんな状況の中


「ぼけっとするな!」


 とエルザさんの叱咤(しった)が聞こえ、銀の閃光が私の首もとを走った。私はそれを(あご)を上げて(かわ)す。

 上げていた顎を引いて前を見ると、いつの間にか私の周囲からは誰もいなくなっていた。


 姿を探すと私から五十メートルほど離れた所に、固まるように集まっている。

 その中にワンドやロッドを持った後衛が魔法を唱えているのが見えた。


 ──突如、私の足下に半径五メートルはありそうな魔法陣が出現する。

 その魔法陣が血のように赤く輝いたと思った瞬間──


 爆発したような轟音(ごうおん)と共に視界が赤いうねりに(おお)われた。




 ──それが十秒ほど続いただろうか、ふいに赤一色だった視界が開ける。

 何が起きたのだろう? 何も変化は⋯⋯


 ──あっ!?


「ああっ! ふ、服が──」


 私はショックで、声を上げるしかなかった。

 服が見るも無残なことになっていたのだ。奇跡的に見えてはいけないところの部分は、残っていたけど⋯⋯

 白かったブラウスは両袖が無くなっていて、袖以外もあちこちに穴があき、汚れたように黒ずんでいる。

 ロングスカートも膝下まであったのが、ミニスカートみたいになっていた。


「キョーコ様に放たれたのは、原初魔法の(まが)いものでございます」


 ファティがいつの間にか私の側にきていて、何が起こったのか説明してくれた。

 原初魔法はファティが使っていたのを一度だけ見たことがあったけど、とんでもない魔法だった。

 火の海と化した樹海を、原初魔法で大雨を降らせて消火してしまったのだ。


「紛いもの?」

「はい。原初魔法に必要な魔力と能力が圧倒的に不足していたため、威力と規模が到底及ばないのでございます」

「そうなんだ。でも何でそんな魔法を、使おうとしたんだろう」

「それはキョーコ様には通常の魔法が効かなかったので、威力のある原初魔法ならばと、浅はかな考えを起こしたと存じます」

「成功していたら、やばかったかもね」


 ほんと原初魔法が成功していたらと思うとぞっとした。その時は服なんて魔法で消え去って、素っ裸になっていただろうから。

 いろいろな意味で恐ろしい魔法だ。


「原初魔法はここにいる魔法使い(エンチャンター)程度が、協力しても使える魔法ではございません。あと最低でも百倍はいなくては」


 ここに魔法使い(エンチャンター)は八人くらいいるんだけど、その百倍って⋯⋯その原初魔法を一人で使えるファティって、何なのだろう⋯⋯


 ──不意にこの時、恐ろしい事実に気付いてしまった。

 ファティは原初魔法の紛いものだと言ったけど、それでも凄まじい魔法だったみたいだ。

 床石が周囲三十メートル以上にわたって、クレータのように(えぐ)れていて、しかも私は壁の近くにいたので、壁も同じく深く抉れていた。


「私、どこか怪我してないかな⋯⋯」


 急に心配になってファティに確かめたくなった。身体の見える場所は外傷もなく痛みもなかったけど、それ以外はどうなっているか、わからなかったし。


「どこもお怪我はされておりませんので、ご心配には及びません」

「よかった⋯⋯」



 ここまで私とファティが長々と話しをしていても、誰も攻撃してくる者はいなかった。

 このまま何もせずに(たたず)んでいても仕方ないので、みんながいる場所まで歩いて向かう。



 ──私が側に近付いてくとみんな後退って距離を取ろうとしていた。

 そんなに怖がらなくても⋯⋯エミリーさんなんか、こっちが心配になるくらい青()めてしまっている。


「頭の悪いあなた方でも、これでご理解いただけたことと存じます。キョーコ様に歯向かうのは愚かなことだと」


 ファティが開口一番、刺激的なことを言った。その言い方だと何か私が悪者みたいに聞こえるんだけど⋯⋯

 戦意はもうなくなっていると思っていたけど、みんな武器を構えるのはやめていなかった。


「まだ戦うおつもりですか? キョーコ様との隔絶(かくぜつ)した力の差を、ご理解いただけたものと存じますが」

「わかっているさ。そいつは正真正銘の化物だ。攻撃もほとんど当たらねえし、傷一つ付けることもできなかった。だが、それでも退けねぇんだよ。俺は迷宮探索者(ダンジョンサーチャー)だからな」


 私はもうフォルティスさんからモンスター扱いされてしまったらしい。もう弁解も聞いてもらえないよね⋯⋯


「私も退けない。ここに来るまでに多くの者が犠牲になっている。それに私は迷宮探索者(ダンジョンサーチャー)だ。財宝を前にして諦めることはできない」


 エルザさんも退く気はないらしい。


「愚かな」


 ファティがそう口にした瞬間、震えが来るほどぞっとしてしまった。

 フォルティスさんもエルザさんもその迫力に(ひる)んでいた。


「キョーコ様。愚か者に相応しい末路を、お与えくださいませ」

「はあ、やるしかないのかぁ」


 私はファティの言葉に溜息を吐いた。

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