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39.お茶会

「はい?」


 カテリナちゃんは振り向きながら、少し気の抜けたような返事をした。

 声をかけられるとは思ってなかったのだろう。


「今何か、急ぎのお仕事とかありますか?」

「いえ、ありません⋯⋯」


 カテリナちゃんは戸惑った様子で私に答えた。


「それでは馬車が来るまで、みんなでお茶でもしませんか?」


 突然こんなことを言い出したのは、カテリナちゃんとも一緒にお茶会をしたら、楽しいと思ったから。

 もちろん断られたら、無理強いはしないつもりだけど。



 ──私の提案にカテリナちゃんは最初は断っていたけど、ファティが口添(くちぞ)えしたらあっけなく陥落かんらくした。


 テーブルを挟んで私の正面に、ファティとカテリナちゃんが並んで座った。

 ファティが一緒にソファーに座ったのは、当主が不在だったからだと思う。


 カテリナちゃんはあらたに、ファティと自分のお茶を用意した。

 お茶はアイスティーで、綺麗な琥珀(こはく)色をしていた。飲むと甘すぎずさっぱりとしていて、口の中がいい香りに包まれる。


 続いてカラフルでマカロンのようなお菓子を食べると、硬すぎず柔らかすぎない独特な歯ごたえがあって、上品な甘さでとても美味しい。


「カテリナ。何か変わったことはありませんでしたか」

「いえ、特にこれといったことはありません⋯⋯」


 カテリナちゃんはファティと話すとき、少し緊張しているみたいだ。

 それともメイドの仕事をしないで、お茶会をしていることを気にしているのかも。

 う〜ん、ちょっと悪いことしちゃったかな。


「ごめんね。カテリナちゃん。急にお茶会に誘っちゃって。問題あるなら言ってね」

「い、いえ。大丈夫です」


 カテリナちゃんから敬語は必要ないと言われたので、私はタメ語で話しかけた。しかも思わずちゃん付けで呼んでしまう。

 でもそれを気にしてる様子はないので、このままちゃん付けで呼ぼうかな。


「この紅茶もお菓子も、すごく美味しいね」

「ありがとうございます。お気に召されたなら幸いです」

「このお茶ってどこで売ってるの?」

「このお茶はラーナ茶という輸入品で、今は手に入れるのが難しくなっています」

「ヘーじゃあ結構貴重なお茶なんだね。手に入らないのは、生産量が少ないから?」

「いえ、このお茶が一切輸入できないためです。このお茶の生産国はラーナというのですが、その国がセルサス帝国との戦争に負けてしまい、輸出が禁じられてしまいました」


 そういえば魔道書に記録されている本の中に、帝国は様々な国と戦争を起こしているという記述が、あったような気がする。


「そうなんだ⋯⋯」

「はい」


 何か重い話になってしまったので、話題を変えたい。


「えーと⋯⋯このお菓子はなんていう名前なの?」


 でも私の会話力ではこの程度が限界だけど。


「はい。このお菓子はキルクルスといいまして、この国発祥(はっしょう)銘菓(めいか)です」

「へー、そうなんだ。このお菓子が買えるお店で、お勧めのところってある?」

「はい。中層にある『天階甘味(てんかいかんみ)』というお店が、一番のお勧めです」

天階甘味(てんかいかんみ)⋯⋯今度行ってみよう。ありがとう」

「い、いえ⋯⋯このお店にはキルクルスだけじゃなく、他にも美味しいお菓子がたくさんあります」



 カテリナちゃんもようやくリラックスして、お茶会を楽しみ始めたように見えたとき、客室のドアがノックされた。

 館にカテリナちゃんしかいないと思っていたので、私は内心ドキッとした。


「失礼いたします。メイド長。ヴェスタル宮殿よりご使者の方がお見えになりました」


 ドアの外から女性の声が掛けられる。

 お茶会をもう少し続けたかったけど、そうもいかないみたい。




 館の外に出ると黒塗りの高級そうな馬車が停まっていた。

 箱型座席(キャリッジ)のドアのところには、金色のゴブレット型のエンブレムが装飾されている。


「私はカーラと申します。キョーコ様とファティさんでいらっしゃいますね」


 馬車の側に立っていた黒いスーツのような正装をした女性が、お辞儀したあと名乗ってきた。

 髪はショートにしたブロンドで、顔はキリッとしている美人だった。


「はい、そうです」

巫女姫(みこひめ)様の申し付けにより、お迎えに上がりました。どうぞ、お乗りください」


 カーラさんが箱型座席(キャリッジ)のドアを開ける。

 私は馬車に乗り込むまえに


「カテリナちゃん。今日はありがとう。とっても楽しかったよ。また来るね」


 と別れの挨拶をした。


「キョーコ様⋯⋯ありがとうございます。よろしかったらこれをお持ちください」


 カテリナちゃんが私に、包みに入った四角いものを差し出した。


「これは?」

「ラーナ茶とキルクルスです」

「もらっていいの? 貴重なお茶なのに」

「はい」

「ありがとう」


 カテリナちゃんの好意に甘えていただくことにした。

 包みは収納魔道具(マジックコッファー)にしまう。


「カテリナ。それでは」


 ファティは短い別れの言葉をカテリナちゃんにかけた。


「はい。ファティ様」



 馬車の内装は赤を基調としていて座席は純白の革張りだった。

 私が後輪側に座ると、ファティは私の正面に座った。座り心地がとてもいい。

 ファティの背後からノックの音がしたので見ると連絡用の小窓が開き、そこからカーラさんが顔を(のぞ)かせた。


「出発いたします」

「お願いします」


 私が返事をすると連絡用の小窓が閉まり馬車が出発した。

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