35.ダンジョンへ
巫女の神域の入り口を探して、教会の中を見回すと中はとても広く天井は高かった。
内装は豪華でところどころ金色の装飾が施されている。
少し目線から高い所に、外からの陽光を受けて幻想的に輝くステンドグラスがあった。どうやらそのステンドグラスは、霊盃の巫女の何かの事績を伝えているらしい。
教会の端には少し高い段のような所があって、そこではお揃いの純白のローブを着た少年少女の合唱団が、不思議な響きの美しいコーラスを聞かせていた。
「巫女の神域の入り口ってどこにあるの」
教会の中で入り口を探してうろうろするのはよくないので、ファティに頼ることにした。
「こちらでございます」
ファティに案内されてついて行くと、巫女の神域の入り口はすぐ近くにあった。
祭壇の裏、壁画の真下に地下に降りていく階段があったのだ。
人ひとり通れるのがやっとの高さと幅だった。
そこを私が先頭になって、後ろをファティが続いて階段を降りていく。
階段はそれほど続かず、すぐに十畳くらいの広さの空間に辿り着いた。
そこを魔道灯が妖しく照らしだしている。
正面には手の込んだ芸術品のような扉があった。
芸術品のようなではなく、芸術品なのかもしれない。
とても美しい浮き彫りで、大きなゴブレットのまわりを六人の美女が囲んでいた。
──ここで私はいったん観察するのをやめた。
何故ならさっきから扉の両側に立っている二人の男性が、不審者を見るような感じの視線を私に向けていたから。
でもそれは私が突っ立って、扉を眺めていたためだから仕方がない。
「あの⋯⋯ダンジョンに入りたいのですが」
私は出入りを監視しているらしい二人の男性に、聞いてみた。
「迷宮探索者の許可証は持っているか」
答えたのは私から見て右手側の男性だった。
「はい。あります」
さっきもらった許可証を収納魔道具から取り出して、男性に手渡す。
それを受け取ると男性は、じっくりと調べるようにして見始めた。別に緊張する必要はないんだけど、少し緊張した。
「ランク1、初心者か。中にはモンスターがいるんだぞ。そんな格好で行く気か」
男性がそう言うのも無理はない。私の格好はブラウスにスカートという、ダンジョンに潜るには場違いな格好をしていたから。
「ご心配ありがとうございます。装備品は収納魔道具に入っていますので、後でそれを装備します」
私は門番の人を安心させるためにそう答えた。
実際、装備品は鋼の剣一つだけだ。防具はない。でもそれは私には必要なかった。
古代級地龍でも私に傷を負わせることができなかったので、ここのモンスターに傷を負わされる心配はなかったし。
それにあまり重そうな装備はしたくないというのもあるけど。
「そうか。なら通っていいぞ。気をつけてな」
門番の人はそう優しく声をかけてくれると、扉を開けた。
「ありがとうございます。気をつけます」
私はそう答えながら巫女の神域のダンジョンに続く扉を通った。
巫女の神域に入ると直線の通路が続いていた。
天井には等間隔に魔道灯が並んでいて、通路を照らしている。
この通路の壁は私とファティの部屋の壁や、最下層の壁とも違っていた。
白い壁ではなく黒っぽい壁だった。
他に人の気配は感じられない。まあ、索敵能力の低い私では、あまり当てにならないけど⋯⋯
いつモンスターに遭遇してもいいように、収納魔道具から鋼の剣を取り出す。
この剣は新しいもので、獣人のセルウィさんと戦った際に折れてしまった剣と、ファティが交換してくれていた。
通路を少し進んでみると右に曲がっていて、近づくにつれて角で見えなくなっている奥から、何かぬちゃ、ぬちゃというような音が聞こえてきた。
前にもこんなことがあったような⋯⋯
不気味に感じつつ、思いきって通路の角を曲がる。
音の正体は──
スライムだった。
ブラックミスリルスライム!?
巫女の神域で初めて遭遇したモンスター⋯⋯だと思ったんだけど、色と大きさが違った。
ブラックミスリルスライムは青黒く私の腰くらい大きかったけど、このスライムは薄緑色をしていて大きさは半分もなかった。
動きもブラックミスリルスライムと比べると、とても緩慢だ。
私は鞘から剣を抜くと、攻撃される前にスライムを斬り裂く。
スライムは弛緩したように身体が崩れると、床に広がって動かなくなった。
その時、何かが一瞬光ったような気がしたのでよく見ると、緑色をしている宝石のようなものが落ちていた。
「魔石?」
「さようでございます」
魔石はもっと大きかったような気がするんだけど、ファティが言うんだから間違いないよね。
このあと通路に現れるスライムを、何匹か倒しながら進んで行った。
最初は分岐のない通路だったけど、次第に分岐が出てきた。
その分岐を右や左、真っ直ぐと適当に進んでいく。
そういえば地図ってないのかな、と考えていたら、小さなシルエットが視界に一瞬入った気がした。
──人間の子供!?
いや⋯⋯違う。
濁った瞳に鷲鼻、口からは鋭い牙、そして緑色の肌──ゴブリンだ。
でもダークゴブリンとは、肌の色も身体の大きさも違った。
ダークゴブリンは私より身体が大きかったけど、目の前にいるゴブリンは私より頭一つ分低い。
装備も錆ついた剣と、腰にぼろの布を身に着けているだけだった。
ゴブリンは私に気付くと奇声を上げながら、剣を振りかざして私に向かってきた。
その動きがあまりにも遅かったので、あっさりゴブリンを倒せてしまった。
倒したゴブリンから魔石を取ろうとしたんだけど、ファティに雑用は私がいたしますと言われて、取らせてくれなかった。
ファティがゴブリンから魔石を取り出すのを見ていたけど、やっぱりエグかった。
このあと何匹かのゴブリンとスライムを倒しながら進んでいくと、さらにダンジョンの分岐が多くなって通路が複雑になってきたので、いったん戻ることにした。
それに早く魔石を換金したかったし。
許可証があるから、今度こそ売れるはず。




