32.巫女姫様からの手紙
この日は霊盃の巫女関連の本をいろいろ読んでみたけど、共通していたのは霊盃の巫女に関して詳しいことが、はっきりと分かっていないということだった。
それに今さらだけど、本で私が今いる国の名前が、大神巫国ということを知った。
今日はこれで本を読むのを終わりにして、書庫から部屋に戻った。
──翌日、ダイニングルームで朝食を食べ終わったあと
「キョーコ様。巫女家からお手紙が届いております」
とファティが封筒を持ってきた。
「手紙? ここダンジョンの地下だよね。一体どうやって届いたの」
「伯爵のメイドが地上の魔法陣のある倉庫まで、届けてくれたのでございます」
「あっ、そっかぁ。それくらいしか届ける方法ないよね」
巫女家から届いた白い封筒は、宛先も差出人も書かれていなかった。封筒を閉じるところに赤い封がされているだけだった。
たしか封蝋といったはず。
赤い封蝋はゴブレットのような形の印が押されている。
これってどうやって開けるんだろう、と思っていたらファティがペーパーナイフを出してくれた。
「ありがとう」
ペーパーナイフを封蝋にそって使うと、封蝋が割れたので手紙を取り出した。その取り出した手紙に目を通す。
『いよいよ花が豊かに薫り、蝶の舞う季節の訪れる頃、いかがお過ごしでしょうか。
キョーコ様。ファティさん。
先日は危ないところを助けていただき、ありがとうございました。
突然ですがそのお礼を是非したいと思っています。
お二人に楽しんでいただけたらと、様々な催しをご用意しています。
そこでご都合のよろしい日があれば、お教えいただけないでしょうか。
すぐにお迎えの馬車をご用意いたしますので、お越しいただけたら嬉しいです。
それではヴェスタル宮殿でお目にかかれる日を、楽しみにしています。
一日千秋の思いのメアリより』
巫女姫様のからの招待状⋯⋯嬉しいけど不安だ。
貴族の礼儀作法なんていっさい知らないし。それに何を着ていけば⋯⋯
「巫女姫様からの招待状だったよ」
ファティに手紙を差し出すと、すぐには受け取らずに私の目を見た。読むことを遠慮しているのかな。
「ファティも招待されているから、読んでも大丈夫だよ」
「はい」
ファティは手紙を受け取って、目を通した。
「どうしよう⋯⋯私、宮廷の礼儀作法なんてしらないし。何を着て行ったらいいのかもわからないよ」
「キョーコ様は普段通りになさっていれば、よろしいかと存じます。お召し物もそのままで問題はございません」
今着ている服は貴族の子女のらしいから、問題はなさそうだけど、普段通りにすればっていうのは大丈夫なのかな⋯⋯
そもそも私の普段通りって、何だろう。
「う〜ん、大丈夫かな?」
「ご心配には及びません」
まあ、ファティがこう言ってくれているので安心かな。宮廷の礼儀作法もドレスコードも知っているだろうし。
「手紙の返事をするには、どうしたらいいんだろう」
「すぐにお返事いたしますか?」
「うん。それでいつ頃がいいかな」
「迷宮探索者の試験結果のあとでよろしいかと」
「そうしよっか。でも迎えの馬車って、一体どこにくるんだろう」
「巫女姫様はキョーコ様がおられるのは、伯爵家だと思っておいでなので、伯爵家に馬車をお寄こしになると存じます」
そういえば伯爵家に、お世話になってる的な感じになってたんだっけ。
「じゃあ、迎えにくる日に伯爵家に行けばいいんだね」
「さようでございます」
その時、伯爵家の人にもご挨拶しないとね。
「手紙の代筆、お願いできる?」
「かしこまりました」
私は異世界の文字は読めるけど、書くことは出来なかった。書く勉強もしたほうがいいのかな。
ファティは返信の手紙を認めると
「あとは伯爵家にお届けすれば、じきに巫女姫様からご返信が届くかと存じます。それでは伯爵家に手紙を届けに行って参ります」
と言って部屋を後にした。
それから一時間程度でファティは部屋に戻ってきた。
このあとは特に本を読む以外することがなかったので、霊盃の巫女に関する本を夕食の時間になるまで読み続けた。
夕食を食べたあとは、温泉に入ってからリビングでファティとまったりする。
午後十時ごろに自分の部屋に戻った。
明日はいよいよ試験結果の発表の日。
私はベッドの中で期待と不安を感じながら眠りについた。
昨日は夜更かししなかったので、ちょうどファティが朝食を作っている時間に目が覚めた。
ファティに聞いたところ迷宮探索者ギルドが開くのは、朝の十時頃だという。
今はまだ七時なので、時間がくるまで本でも読もうと書庫に向かった。
二時間くらい書庫で本を読んでから、私とファティは迷宮探索者ギルドに向かって出発した。
扉が開いていたので私たちは中に入って受付に向かう。そこには私を登録してくれたセレンさんの姿があった。
「キョーコさん。おはようございます」
「おはようございます」
「試験の結果ですね」
「はい」
「ここではなんですので、どうぞこちらにいらしてください」
私とファティはセレンさんに個室に案内された。
 




