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31.遠話の指輪

 本によると霊盃(れいはい)巫女(みこ)アストルムさんが得意としたのは空間魔法で、転移魔法を生み出したのもアストルムさんだったらしい。

 でも転移魔法は難しく、個人で使えるものはごく(わず)かであるため、あまり普及はしていないという。

 個人で使えない場合は、大勢の魔法使い(エンチャンター)が必要だったり、魔石が大量に必要になる。

 それでも転移魔法は革命だった。


 まあ、それはそうだよね。どんな場所からでも転移魔法陣さえあれば、一瞬で転移可能なんだから。

 またアストルムさんの起こした魔法の革命はこれだけじゃない。

 通信魔法と呼ばれる魔法も生み出している。

 魔法名からでも想像できるけど、それは離れた相手と自由に会話することのできる便利な魔法。

 通信魔法を使うには、媒介(ばいかい)となるアイテムが必要でそれはとても高価だという⋯⋯


「通信魔法に必要なアイテムって、いくらぐらいするの?」

「通信が可能な範囲でその価格は決まっておりますが、一番安いもので三百万円ほどでございます」

「たっ、高いね!」

「キョーコ様は通信アイテムをお求めなのでございますか」

「あったら便利かなと思って、ファティと離れてても会話できるし──」



 ──この時、思いもよらないことが起きた。

 ファティの眉が下がって、悲しそうな表情を浮かべたのだ。

 私は突然のことに慌ててしまった。


「ど、どうしたの?」


 ファティはハッとしたようになって、すぐにその悲しそうな表情は普段の美しい表情に戻った。

 まあ、悲しそうなファティも美しいんだけど⋯⋯って何を私は考えてるんだろう。


「な、なんでもございません」


 ファティのこんな様子を見るのは初めてだ。


「何か言いたいことがあったら、何でも言って欲しいな」


 ファティとはお互いに言いたいことが言える、そういう関係になりたいと思うし。


「あの⋯⋯キョーコ様はお一人で、どこかにおいでになるお考えなのでしょうか?⋯⋯」


 ファティが躊躇(ためら)うように口を開いた。


「えっ!? 私が一人でどこかに? ないない、それはないよ。さすがに異世界で一人なんて心細いし。よかったらファティにずっと一緒にいてもらいたいんだけど」


 ファティはほっとしたような表情になって


「はい。どこまでもお供させていただきます」


 と嬉しそうに微笑んだ。

 本当にどうしたんだろうと思っていると、ファティはすっと目の前に(てのひら)を差し出してくる。

 その上には何か小さなものが()っていて、よく見るとそれは指輪だった。


「これは遠話(えんわ)の指輪という名のマジックアイテムでございます。これを装着すればペアの指輪を装着したものと、自由に会話することが可能になります」

「これが通信魔法アイテム! 見てもいい?」

「はい」


 私は許可を得て、遠話の指輪を借りて眺めた。

 さすがに最低でも三百万円はするという通信アイテムなので、高級感があった。

 リングの部分に何やら文字が刻まれているけど、読めなかった。この文字は日本語に翻訳(ほんやく)されないみたいだ。

 リングには美しい翡翠(ひすい)色の宝石が()め込まれていた。


「ありがとう。とても綺麗だね」


 指輪を返そうと差し出す。


「いえ、それはキョーコ様がお使いくださいませ」


 ファティは指輪を受け取らずに、びっくりする発言をした。


「えっ!? いや、だめだよ⋯⋯」

「私もペアの遠話の指輪を持っておりますので」


 と同じ指輪を私に見せる。


「キョーコ様はそちらをお持ちになってくださいませ」

「でも⋯⋯」


 こんな高価なアイテムは貰えない。


「この遠話の指輪はアストルム様が自らお造りになられた、とても貴重なマジックアイテムでございます」

「アストルムさんが⋯⋯」

「キョーコ様がお使いになれば、アストルム様もきっとお喜びになると存じます。それにこのままですと使われる機会がございませんので、宝の持ち(ぐさ)れになってしまいます」


 指輪の翡翠(ひすい)色の宝石を眺めてると、急に宝石と同じ色だったアストルムさんの髪と優しい瞳を思い出した⋯⋯

 アストルムさんが造った指輪を無下(むげ)に断ることはできないよね。


「ありがとう⋯⋯大事に使わせてもらうね」



 さっそく指輪を指に()めようとして、どの指がいいのか迷う⋯⋯たしか左手の中指は、コミュニケーションにいいって何かの本で読んだことがあったような。

 そう思って指輪を左手の中指につけることにした。


「ぴったり!」

「指の大きさに合わせて指輪が変化します」

「それも凄いね」


 ファティも左手の中指にもうひとつの遠話の指輪をはめた。指輪はその綺麗な指によく似合った。


「ちょっとこの指輪試してみていい? どうすれば使えるの」

翡翠(ひすい)色の魔石の部分を押すと、使用することが出来ます。私が部屋の外に出ますので、押してみてくださいませ」

「うん。わかった」



 ファティは部屋の外に出るとドアを閉めた。

 私は言われた通りに、遠話の指輪の翡翠(ひすい)色をした魔石部分を押す。

 するとボタンを押すような感覚が伝わってきて、魔石が光って点滅しだした。

 それから優しい鈴のような音が直接頭の中に響いてきた。


「この鈴が鳴っているような音は!?」

『それは相手を呼び出している音でございます』

「わっ!! 頭の中でファティの声が聞こえる」

『遠話の指輪の効果でございます』


 頭の中で声が聞こえるのは、慣れるまでちょっと時間がかかりそう。


「これはどれくらいの距離まで使えるの?」

『世界中のどこでもお使いになれます』

「それはすごいね!」

『アストルム様の特別製でございますので』


 アストルムさんはマジックアイテム造りも得意だったんだ。


「通話を終えるにはどうすればいいの?」

『魔石の部分をもう一度押していただければ、通話は終了いたします』

「わかった」


 遠話の指輪の魔石を押すと、鈴の音が一回聞こえた。


「もしもし?」


 ファティからの返事はなかった。どうやら通話を終了できたようだ。

 その後すぐにファティが部屋に戻ってきた。


「これがあればいつでも連絡が取れるね」

「はい」



 ──再び私が本を読もうとしたら


「キョーコ様。そろそろ昼食のお時間になりますが、いかがなさいますか」


 とファティが知らせてくれた。


「昼食? もうそんな時間なんだ。そうだね。いったんお昼休憩にしよう」


 本を読んでいたら、あっという間に時間が()っていたみたい。

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