28.帰還
騎士らしき二人が馬車の轅に自分たちの馬を繋ぎ、それから馭者台に座った。
「巫女姫様。ご出発の準備が整いました。馬車にご乗車ください」
アダマスさんが巫女姫様を促す。
「キョーコ様、ファティさん。一緒に乗りしましょう!」
巫女姫様が馬車の相乗りを誘ってくれたけど、アダマスさんが眼光鋭くこっちを見ている。
ここでアダマスさんをあえて刺激する必要もないので
「巫女姫様。まだ賊がどこかに潜んでいるかもしれません。私たちは警戒しながら歩いていきます」
と言って馬車に乗るのを遠慮した。
「わかりました⋯⋯キョーコ様。また後ほど」
巫女姫様は残念そうに答えて、アダマスさんにエスコートされながら馬車に乗り込んだ。
賊に破壊されたドアは布を掛けられて、中が見られないようにされていた。
やがて馬車を中心にして総勢五十名以上が移動を開始する。
賊たちは武器を取り上げられたあと、鎖に両手と身体を拘束され二列になって後方を歩かされた。
「行こっか」
「はい」
私とファティは最後尾を歩いてついてゆく。
「さっきファティが言ってた、えーと、マグなんとか伯爵?」
「ジュリアス・フォン・マグヌス伯爵でございますか」
「そうそう、マグヌス伯爵。もしかしてファティが今まで言っていた伯爵の協力者って、そのマグヌス伯爵のことなの?」
「さようでございます」
「大丈夫? 巫女姫様が連絡するって言ってたけど」
「問題ございません」
「そっか」
ファティがそう言うんだから、心配しなくてもいいかな。
道中、新たな賊も現れず捕らえた賊たちも大人しかったので無事、神都レクスに到着した。
賊たちを鎖で縛って歩かせていたので、進行速度が遅く到着するまで一時間くらいかかったかもしれない。
今は西門の前で馬車が止まっているので、進むまで待機状態だ。
「モンスターに遭遇するかもって思ってたけど、一度もそんなことなかったね」
道の両側が薄暗い森に囲まれ、いかにもモンスターが出てきそうだったのに⋯⋯
ただ、奇妙な咆哮や木が折れるような不気味な音はしていたけど。
「この辺りのモンスターは迷宮探索者を恐れて、滅多に人間の前に姿を現すことはございません。定期的に街道を見回っておりますので」
私の疑問にファティがすかさず答えてくれた。
「そうなんだ。それは安全だね」
「はい」
この会話を終えたちょうどその時、私たちの方へアダマスさんが向かって来るのが見えた。
「巫女姫様がお呼びだ。来てほしい」
アダマスさんについて馬車のところにまで来ると、巫女姫様がすでに外に降りて私たちを待っていた。
「キョーコ様! ファティさん。今日は助けていただきありがとうございました。あっ、そうでした。ローブをお返ししなければ⋯⋯」
巫女姫様がローブを脱ごうとすると
「ローブはお召のままお帰りになられた方が、より安全でございます」
とファティは脱ぐのを止めさせた。
「わかりました⋯⋯ご厚意に甘えさせていただきます」
「巫女姫様。そろそろ出発いたします」
アダマスさんが急かすように促した。
「分かりました。キョーコ様、ファティさん。またお会いしましょう!」
「はい。また」
巫女姫様は私たちに手を振ってから、馬車に乗り込んだ。
馬車はゆっくりと、神都レクスの立派な防壁の間にある門を通って行く。集団もそれに合わせて出発した。
私とファティもその後に続いて、門を通り抜けた。
今日はなんだか疲れたので帰ろうかな。
疲れたといっても身体は疲れてなかったけど。
「帰ろうか」
「かしこまりました」
「ここからだと帰るのに時間がかかる?」
「近くに転移魔法陣がございますので、それほどお時間はかからないかと」
「ほんと! 一体いくつこの国に転移魔法陣があるの?」
「東西南北の門の近くに一箇所ずつございます」
「そうなんだ。そういえば転移魔法って魔法陣がなければ使えないの?」
「はい。ですがそんな制約もなく、転移魔法を自由に使えた方がおられました」
「そんな人もいるんだ」
「霊盃の巫女様でございます」
「そっかぁ⋯⋯」
一応私も霊盃の巫女だけど魔法は使えないし。
魔法陣がなくても使えればとても便利だと思ったけど、そんなに都合良くないみたい。
「申し訳ございません。私が無能なばかりにキョーコ様に不便を強いております」
「あ、謝らないで。私はとても助かっているから」
「もったいないお言葉でございます」
この後ファティに案内されて、裏路地にある建物の中の魔法陣を使って転移した。
その建物もマグヌス伯爵の所有物らしい。
巫女の神域の地下九階層の白い壁を見たとき、不思議と自分の家に帰ってきたような安堵を感じた。
戻ってきたら温泉に入ろうと思っていたので、そのまま浴場に向かう。
ファティも一緒に温泉に入ることになった。
最初は断っていたけど、私がしつこく言うので根負けしたらしい。
着替えは賊との戦いで少し汚れてしまった服とは別の綺麗な服が、更衣室に置かれていた。
ファティは私が温泉に入って少し経ってから来たので、その間に新しい着替えを用意してくれたらしい。
温泉から上がるとリビングでファティの淹れてくれたお茶を飲んで、夕食の時間までのんびり過ごした。
夕食はパンと野菜サラダに魚のムニエルだった。
ファティの用意する食事は相変わらず美味しい。
夕食後は自分の部屋に行って、今日は早めに就寝した。




