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19.試験開始

「身元を保証できる方はいませんか。そうすれば許可証を発行できますので」


 セレンさんの言う身元保証人なんて異世界にいない⋯⋯とちょっと落ち込んでいると


「このお方が身元保証人になって下さいます」


 とファティが一枚の紙を取り出した。

 セレンさんはそれを受け取ると、紙面に目を走らせる。


「これは大変失礼いたしました。伯爵(はくしゃく)が保証人になっていただければ、何の問題もありません。これで書類の方は終わりです。続けて試験の方がありますが、よろしいでしょうか」


 伯爵が保証人? よくわからないけど、とりあえずここは試験は受けておこう。

 あとでファティにどういうことか、聞いてみればいいし。


「はい。よろしくお願いします」

「では少々準備がありますので、席にお掛けになってお待ちください」




 私とファティはさっき登録用紙を書いた丸テーブルに戻ってきて座った。


「さっきのことなんだけど、ファティって伯爵(はくしゃく)の知り合いなの?」

「はい。色々とご協力いただいております」

「そうなんだ。でも私の保証人にしちゃってよかったのかな」

「問題ございません。ですがキョーコ様がお嫌であれば、別の方法をお探しいたします」

「別に嫌じゃないけど」


 むしろありがたい感じかな。この世界で保証人になってくれる人を探すのは、大変そうだし。


「今度挨拶に行った方がいいのかな」

「キョーコ様のお望みのままに」

「う〜ん、今度余裕ができたら会いに行くことにするよ。その時は紹介してくれる?」

「かしこまりました」


 まだこの世界に来たばかりで、余裕がないしね。

 そう思っていたらセレンさんが、こちらに向かってくるのが見えた。


「お待たせいたしました。試験場までご案内いたします」


 ちょっと緊張してきた。一体どんな試験なんだろう。

 


 セレンさんの後をついてロビーを抜け、奥の方に向かって通路を右に行ったり左に行ったりしながらしばらくいくと、地下に続く階段があった。


 そこの階段を下りて最後の段を踏み終えたとき

 

「こちらが試験を受けていただく場所になります」


 とセレンさんが教えてくれた。


 案内されたのは学校の体育館くらいの広さがある場所だった。

 剣を構えて模擬(もぎ)戦をしている人や、組手(くみて)のようなことをしている人たちがいる。

 訓練場のような所なのかな。


 セレンさんはそのような人たちの中で、何もしていないひとりの人物のところで立ち止まった。

 その人物がタイミングよくこっちに振り向いた瞬間──


「えっ!?」


 と私は思わず声を出していた。

 その人物が私とファティに路地裏で(から)んできた、あのスキンヘッドの強面(こわもて)の男だったから。


「あっ!」


 スキンヘッドの男も私たちに気付いた。


「お知り合いですか」

「ちょ、ちょっとな」


 セレンさんに聞かれるとスキンヘッドの男は、そう答えただけで裏路地であったことは言わなかった。


「そうですか⋯⋯こちらの方が試験官のガイウスです」


 セレンさんは少しだけ怪しむ素振(そぶ)りを見せながら、スキンヘッドの男を紹介をした。


「試験官のガイウスだ⋯⋯これから君の試験を担当する。よろしくな」

楽堂響子(がくどうきょうこ)です。よろしくお願いします⋯⋯」


 理由はわからないけど、ガイウスさんは路地裏でのことは話さないらしい。

 それなら私もわざわざ自分から言わないほうがいいかな。


「それでは試験を開始する前に、聞いておくことがある。君の得意とする戦闘スタイルはなんだ?」

「戦闘スタイル?」

「剣か格闘か、それとも魔法か?」


 私の得意とする戦闘スタイルってなんだろう? 

 よくわからないけど、ファティなら私の戦闘スタイルを知っているかもしれない。

 聞いてみようと振り向いたら、ファティと目が合い


「キョーコ様のお好きな戦い方で、よろしいかと存じます」


 と曖昧(あいまい)なアドバイスをくれた。

 お好きな戦い方でよろしいって⋯⋯どうしよう。

 剣にしようかな。一応使えたから⋯⋯


「剣です」


 これが得意な戦闘スタイルかはわからないけど。


「ほう、奇遇(きぐう)だな。私も剣がもっとも得意な戦闘スタイルだ。迷宮探索者(ダンジョンサーチャー)の仕事は主にダンジョンのモンスターを倒して、魔石を得ることだ。そのため危険も多い。ダンジョンに(もぐ)れるだけの実力があるかどうか、試させてもらう」


 ガイウスさんはニヤリと笑うと、ふた振りの剣を取り出し片方を私に手渡した。


「剣身は(つぶ)してあるが、油断すれば大怪我をする。気をつけろ」

「わかりました」

「では、始めるぞ」


 その言葉を合図のように、ファティとセレンさんは試験の邪魔にならないよう壁際に移動した。



 ガイウスさんが剣を片手で構える。身体は少し横向きにしていた。

 剣は剣身が潰れているくらいで、特に変わったところはなく、刃渡りは七十センチくらいあった。

 私は剣道でいう正眼(せいがん)の構えをする。

 剣道をやっていたわけじゃないんだけど、自然にこの構えになった。


 ガイウスさんは剣を構えたまま動かなかった。

 私から攻めてもいいんだけど、全力でやらない方がいいよね。

 古代級地龍(エンシェントドラゴン)と戦った時は、あの山のような巨体を殴り飛ばして昏倒こんとうさせるほどの力があったし。

 まあ、昏倒できたのはファティの魔法のダメージで、ほとんど体力がなくなっていたからかもしれないけど。


 ここは安全にいこう。剣身が潰れて切れなくても、相手に当たったらただじゃ済まないし。

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