16.路地裏のバトル
スキンヘッドの男を中心に、男たちが路地裏の逃げ道を塞ぎつつ、にじり寄ってきた。
その中の一人が突然、私に向かって手を伸ばして掴みかかってくる。
その動作があまりにも緩慢だったので、余裕を持って躱すことができた。
男は躱されたことに苛立ったのか、ムキになってさらに掴みかかってきた。
それも簡単に躱すことができたけど、このままだと埒が明かない。
やっぱり多少は抵抗しないといけないのかなと考えていたら、背後から呻くような声が聞こえてきた。
振り返って見ると、男が蹲って苦しそうにしている。
ファティは男たちを遠慮なく打ち倒していたのだ⋯⋯
向かってくる男たちに華麗に手刀や蹴りを繰り出している。
ファティの舞うように戦う姿に、目が釘付けになっていたら
「捕まえたぜ。お嬢ちゃん。もう逃げられねえぞ」
とスキンヘッドの男に、背後から両肩をつかまれた。
自分の両肩を見ると、私の手の倍はあるんじゃないかというほどのゴツゴツした大きな手で、がっしりと抑え込まれている。
私は右手を回してスキンヘッドの男の左手首をつかみ、外しにかかった。
普通であれば体勢も悪く、屈強な男に押さえこまれたら手も足もでないと思うけど──
「何をするつもりだ。無駄なことを──」
スキンヘッドの男の言葉が途中で途切れる。
私は掴んでいる手首を、慎重に持ち上げていく。
力を入れ過ぎたら、手首を砕いてしまうかもしれないし。
「痛ぅ、ば、馬鹿な。こんな少女の細腕の──」
スキンヘッドの男は呻くと、私の両肩をつかんでいた手を離した。
足の甲を踵で踏みつけてもよかったんだけど、怪我をさせるつもりはなかったのでしなかった。
自由になった私はスキンヘッドの男に向き直って
「いきなり女性の肩に手を置くのはセクハラですよ」
と咎めた。多分意味は通じないけど。
でもこのスキンヘッドの男は、乱暴ではなさそうだ。
暴力をいきなり振るってくるような真似はしなかったし。
スキンヘッドの男は左手首を右手でさすりながら睨みつけてくる。その凄みは、なかなか迫力があった。
普通なら気圧されるところだけど、古代級地龍とのバトルと比べれば何でもない。危機感もなかったし。
「おい、なに手こずってやがる。とっとと捕まえろ!」
と苛立った声がしたと思ったら、スキンヘッドの仲間の男が私に飛び掛かってきた。
「おい! よせ! その女は普通じゃない」
スキンヘッドの男が仲間に叫ぶ。
私はひどい言われようだなぁと思いつつ、突進してくる男を躱す。
その男はなぜか、ぐぇぇと痛そうな声を上げると、うつ伏せに倒れてしまった。
その倒れた男の前にはファティが立っていて、その足元にはさらに六人の男たちが倒れていた。
ファティがあっという間にのしてしまったようだ。
「くそがぁ」
まだ残っていた男の一人が、吐き捨てるように言いながらナイフを取り出した。
「抵抗するな。おとなしくしろ」
男はナイフを私たちに突きつけ脅してきた。
「おい、馬鹿やめろ!」
スキンヘッドの男がナイフを持った男を止めようとしたけど
「うるせえ! あんたがあんな小娘ごときに手こずるからいけねえんだ。始めからこうしときゃよかったんだよ」
とナイフを持った男は、制止の言葉を無視して私に突っ込んできた。
私は自分の腹部を刺される前にナイフを素早く指で摘んだ。
この身体になってから、イメージした通りのことが出来た。身体の方はオートで動いているような感じだ。
でもそのおかげで戦った経験のない私でも戦えている。
「えっ、あ?」
男が呆けたような声をあげた。
一瞬何が起こったのかわかっていないようだった。
やがて自分のナイフが指で摘まれているという異常な事態を理解すると、ナイフを手前に引き戻そうとした。
それでもナイフは固定されているみたいに、微動だにしない。
さらに男は足を開き力を入れやすい体勢にして、顔を赤くしながら声を上げナイフを引っ張り出す。
そこまでしても動かないのでとうとう両手でナイフを握って、押し込む動作までしてきた。
でもナイフは指二本で摘まれた元の位置から少しも動かない。
「な、なんで動かない⋯⋯」
私はナイフを摘む指にそれほど力を入れている感覚はなかった。
「そろそろ、やめにしませんか。これ以上すると、怪我をするかもしれませんし」
私は建物の影に隠れているエルフのお姉さんに向かって、聞こえるように話しかけた。
 




