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13.異世界の食事

「どうぞお召し上がりください」

「あれ? ファティは食べないの」

主従(しゅじゅう)は共に食事をしない決まりでございますので」

「主従って⋯⋯私はそうは思ってないから。それよりせっかくの料理が冷めちゃうから、一緒に食べようよ」


 ファティは一瞬躊躇(ためら)いを見せたあと、自分のぶんの食事を持ってきて私の正面に座った。



「いただきます」

「キョーコ様。その言葉は食前のお祈りのようなものでございますか」

「改めて聞かれると⋯⋯由来はわからないけど、でも食事の時はそう言ってるよ」

「さようでございますか」


 そう言ってファティは


「イタダキマス」


 と私の真似をした。言い慣れていない感じが、なんか可愛い。


 私はさっそく冷めないうちに、異世界のシチューをスプーンで(すく)って、一口食べてみた。



 ──美味しい⋯⋯見た目もそうだけど、味もシチューにとても良く似ていた。


「このシチュー。ファティが作ったの?」

「はい。お口に合いますでしょうか」

「うん。とっても美味しいよ」

「ありがとうございます」


 ファティは嬉しそうに微笑んだ。

 シチューと言っても通じたけど、多分同じ料理名じゃないよね。

 通じるといえば──


「不思議なんだけど、どうして私たちって言葉が通じてるんだろう」


 私は普通に日本語で話しているだけなのに、会話ができている。異世界の言語と私の言語は違うはずなのに。


「それはキョーコ様が始めからお持ちになられていた言語の知識をもとに、霊盃(れいはい)の力でこの世界の言語に、自動的に翻訳(ほんやく)されているためでございます」


 自動翻訳って⋯⋯何の違和感もなく会話できてるんだけど。


「そうなんだ。でも良かった。言葉がわからなかったら大変だし⋯⋯でも凄いね霊盃の力って」

「霊盃の言語の知識は、ウェルバ様の知識が元になっております」

「ウェルバ様?」

「霊盃継承者でございます。言語の天才でございました。ウェルバ様がマスターしていない言語はないとまで言われております」

「はぁーすごいね! 改めてそんなすごい人が霊盃継承者にいると、継承者が私で良かったのかと心配になってきたよ⋯⋯」

「キョーコ様は霊盃から選ばれました。それはすなわち、すべての霊盃継承者から選ばれたということでございます。何もご心配には及びません。キョーコ様はありのままでいいと存じます」

「あ、ありがとう」


 (なぐ)めてくれたみたい。



「話は変わるけど、ここにはファティひとりだけで住んでいるの?」

「はい。私ひとりだけでございます」

「そうなんだ⋯⋯じゃあ、これからよろしくね」

「よろしくお願いいたします」



 ──そんなような会話をしながら食事をしていたんだけど、美味しいためすぐに完食してしまった。


「ごちそうさまでした」

「ゴチソウサマデシタ」


 ファティが可愛く私の真似をしたあと、食器を片付け始めた。

 

「手伝うよ」

「いえ、これはメイドの仕事でございますので」


 ファティにやんわりと断られてしまう。私は無理強いせずに、これ以上は何も言わないことにした。



 しばらくするとファティがティーカートに何かを()せて、キッチンから戻って来た。

 テーブルに置かれたのは、ケーキとティーカップだった。

 ケーキはレアチーズケーキに似ていて、ティーカップには綺麗な琥珀(こはく)色の液体が入れられていた。

 紅茶のような飲み物だろうか。

 まさか異世界に紅茶とレアチーズケーキがあるなんて⋯⋯


「このケーキもファティが作ったの?」

「はい。お口に合えば幸いなのですが」

「絶対美味しいよ」


 私は期待に胸を(ふく)らませて、二等辺三角形に切られているレアチーズケーキを一口食べた。


「美味しい!」


 レアチーズの甘い濃厚なコクが口の中に広がり、私は幸せな気持ちになった。

 琥珀色の飲み物の方は紅茶に風味が似ていて、とても飲みやすくこっちも気に入ってしまった。

 ファティも最初から自分のぶんのケーキと紅茶を持ってきていて、私と一緒にお茶会を楽しんだ。




「ごちそうさま。とても美味しかった!」

「ありがとうございます」



 そういえば今は何時なんだろう。

 辺りを見回してみたけど時計はなかった。


「今、何時かわかる?」


 ファティはテーブルの下に置いていた手を持ち上げると、何か丸いものを握っていてそれを見つめ始めた。


「午後一時十五分頃でございます」


 どうやら時計を見ていたらしい。

 まだ早い時間帯だったので、私は地上に行ってみたくなった。

 それに手に入れたアイテムも換金したい。

 今無一文だし⋯⋯

 


「今から地上に行ってみたいんだけど、行けるかな?」

「かしこまりました。転移魔法陣から地上に出ることが可能でございます」

「それから手に入れたアイテムも売りたい」

「換金可能なお店が地上にありますので、そこに参りましょう。それとこれをお持ちください」


 ファティは自分の収納魔道具(マジックコッファー)から(さや)に入っている剣を取り出した。

 それは私に最初に貸してくれていたミスリルコンという合金の剣ではなかった


「それは?」

「ただの(はがね)の剣でございます」


 初心者用ということだろうか。まあ、始めから良い武器を持つより私はこっちの方がいいかな。


「ありがとう。じゃあさっそく行こうか」


 私はファティから鋼の剣を受け取ると、地上の異世界を楽しく想像しながら、転移魔法陣に向かった。

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