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灰がたまりすぎたので  作者: オジギソウ
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灰がたまりすぎたので 3


 私は今、いつも以上にせわしく部屋を動き回っている。両手にゴミ袋をさげて、その中には家中からかき集めたありとあらゆるゴミが詰め込まれている。

 こういうとき、普段から分別してゴミ箱を分けていたことが幸いして、あまり苦労はしない。人を家に呼ぶのだから、分別も出来ていない人だとは思われたくないものだ。そして、いくらゴミの日直前だからと行って、家中のあらゆるゴミ箱が満帆では、客も気分が悪いというものだ。


 なんとかゴミをまとめ、家の裏にある人目に付かない場所へまとめておいておく。なんとか皆が来る前に終わらせることが出来た。今頃、スーパーでの買い物が終わったことだろうか。

 料理が必要な物を買ってくるかもしれないから、キッチンの戸棚からフライパンや皿を出しておく。今日は、我が家に初めて職場の皆を招く日だ。それも、男性社員のみを。すべては結婚する今田のためである。

 結婚すれば、あまり個人的な飲み会への参加も難しくなってくるであろうから、最後に男だけで語り明かす夜を作ろうという社員達の計らいである。そして場所はなぜかうちに。今田が「課長の家がいいっす!」と言ったために、そうなった。


 緊張するが、特に心配することももうあるまい。一人暮らしで広すぎると感じていた一軒家だ。有効活用してくれるなら願ったり叶ったりである。


 インターフォンが鳴る。私はまだ休まっていない身体に「よいしょ」とむち打ち、玄関先に向かった。


「お邪魔しまーす。広!?」

「課長ここ一人暮らしですか?」

「そうだが。」

「やばっ!」


 人事部の男性社員は8名。アパートの一部屋に詰め込むには狭いし、騒がしすぎる。すでに私は玄関でさわぐこやつらの声の大きさを気にし始めていた。住宅街で騒ぎすぎるのは私の世間体的にもまずい。


「ほらほらーみんな騒ぎすぎると課長が困りますからねー。」


 城田が皆に声をかける。おかげで、多少は声が収まった。城田へ親指を立てて「ありがとう」を表現する。そうだ、こいつも妻帯者だった。そういう心得はあるのだろう。



 会場は大きなテレビを備えたリビングだった。いつも全く汚さないように意識して使っているこの空間であったが、彼らがやってきたことによってお菓子のカスや微かにこぼれた酒の香り、様々な汚れがリビングに放たれる。現に今、若い社員の一人がポテトチップスを頬張った手でカーペットに触れた。

 元妻なら怒鳴っているだろう。だが、この家を管理しているのは私だ。別に良いのではないか。今まで汚さないようにしていたのは、元妻に怒られる気がしていたからであって、そんなことはもうないのだと、今なら分かる。


 皆が今田の婚約者について質問攻めにする。

 今田はどこか垢抜けたようで、思い出に浸るようにして語っている。悪いところも、良いところも、同時に語る。ひときわ顔を赤くした今田よりも若手である部下が「のろけてんじゃない!」と今田を背もたれ代わりにした。

 皆が朗らかに笑う。私はソファに座ってのんびりチューハイを口にしていた。


「課長、かわいいの飲んでますね。」

「別にいいだろう城田。お前も日本酒ばかり飲んで、吐くなよ。」

「吐きませんよ。それは置いといて、課長は、朝山さんとはどうなんです?」

「……は?」


 途端に皆が此方を向く。今田でさえにやっとしながら注意を向けてきた。この状況は想定外だ、今日は今田の話を聞く会ではなかったのか。


「女性陣が噂してますよ、次結婚するのは課長だって。きっと相手は……。」


 皆が顔を見合わせて気味の悪い笑顔を浮かべ合う。私はなんと言って良い変わらず、頭を抱えて嘆息した。話題の中心となった私のことなど放っておいて、皆だけで話題が進んでいく。


――朝山さんと、結婚か。


「課長、どうなんです?結婚する気はあるんですか?」

「……そんなに深く考えたことはないが、相手の気持ちも分からないのに、その質問にはあまり答える気にはならないな。」


 皆が「真面目―」とつぶやきながら落胆したかのように頷き合う。何とでもいえ、私は危ない橋など渡りたくないのだ。朝山さんが私に好意を抱いてくれているのは事実かも知れないが、それが結婚に繋がるのかどうかは話が変わる。

 特に私は戸籍に傷の付いた人間だ。朝山さんと私の意思が固まったとしても、両親などの周囲の人間が許してくれるかどうか。


 そのとき、ポケットの中でスマホが音を立ててはねる。メッセージがきたようだ。


「課長!飲み会の時は電源オフです!」

「そ、そんなルールがあるのか?」

「いやいや、むしろ飲み会のときは緊急連絡に気づきにくいからマナーモードにしたらダメですよ。」


 皆が意見を交わす中、一人スマートフォンを手に取り内容を確認する。


「あ。」

「?どうしました?」


 今田がにやつきながら私の顔を覗く。その行動に触発されて皆も私へ届いたメッセージ内容を気にし始める。余計なことをしてくれた、この男は。


 私は出来るだけ気にしないようにしながら慣れない手つきでスマートフォンを操作してそれを確認していく。


「お忙しいところ失礼します。明日のご予定はおありでしょうか?水族館のチケットがありますので、よければご一緒にどうでしょうか。」


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