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灰がたまりすぎたので  作者: オジギソウ
2/25

去るもの、出会うもの 1

※本作はネット小説として投稿しているため、行間を大きく開けております。行間がないものをお読みになりたい方は、セルバンテスにてお願いいたします。https://cervan.jp/story/p/8353

 カーテンの隙間からこぼれた光が顔にかかった。まぶたの裏が赤くなったように感じる。

 しかし、思えば人間の体を裏返せばどこでも赤い。まぶたを閉じたとき、光が当たらないために黒く見えるだけなのだ。


「…おはよう。」


 そう呟きながら体を起こした。息が白い。が、そこまで長く家にいるわけでもないから暖房は贅沢すぎる。


 ベットから離れ、顔を洗いに行こうと歩き出したとき、足下に転がっていた空き缶を踏みつけてしまった。


「あっ…てててて。いかんいかん。」


 わずかに残っていた赤い飲料がフローリングの床を汚していく。

 ティッシュティッシュと言いながら探すが、部屋のどこにも見当たらない。


 というよりも、部屋が散らかりすぎている。なんとか生活スペースは確保しているものの、片付けるのが面倒になった洗濯物やゴミなどが狭い部屋の端に寄せられている。

 その山々を崩していけば見つかるかもしれないが、私にはその気が起こらなかった。

 

 そうしている間に、空き缶からこぼれた赤い飲料は拭きにくい机の下までたどり着こうとしていた。空き缶に描かれた憎たらしく笑うキャラクターの顔が私に向いている。


「あー…くそ…。」


 反応しない物に悪態をつきながら私は確実に生活必需品が納められているクローゼットに向かった。


 自分の部屋を出れば比較的綺麗な空間がある。ここは十五階建てのマンションの一室。

 自分の部屋を出ればリビングルームだ。そこには綺麗に引かれた緑色のカーペットや、大きなソファ、そして45インチのテレビが鎮座している。長らくそこにいて動かない狛犬のようだ。私を何も言わず見守っている。


 あらっぽくクローゼットを開いてティッシュを探す。

 洗剤やトイレットペーパーを押しのけたところにそれは何段にも重ねられてあった。それを一つ取ると勢いのままに重ねられたティッシュが崩れたが、もういい。

 クローゼットの扉を無理矢理閉じる。コピー用紙が数枚扉に挟まれてしまっているが、気にしない。面倒だ。今はあの赤い飲料をどうにかしなくてはならない。


 朝ご飯はパン一枚。バターを塗ってオーブンレンジに入れるだけで出来上がる。私はパンが好きだ。出来上がった物が売られているから。炊飯器は長らく使っていない。時間を表示するだけの機械と化している。


 昨日と同じ荷物が鞄に入っている。つまり、特別なことがない限りこの鞄の中身をいじらなければすぐに持って行ける。


 着替えのために自分の部屋に戻り、昨日着ていたカッターシャツを拾う。首元が汚れているが、誰も気づかないだろう。しわが付いているが、ジャケットを着れば気にならない。


「…最近、ついてないな。」


 そう呟いたとき、いや、最近じゃないなと思い直した。

 この生活が始まってずっと、私に幸運の女神はついていない。昨日は何があったっけ?と回想しつつ、会社に向かう準備を進める。


「昨日は駅で財布を落とした。」


 ジャケットに付いていた埃を払った。ふと気になって臭いをかいでみる。洗剤と居酒屋で食べた焼き鳥が戦っている臭いがした。


「あと、部下の足を踏んでしまった。」


 そういえば歯磨きをしてない。人と話すことも多い仕事だ。まだ時間はある。洗面所に向かう。足下に転がっている500㎖ペットボトルを蹴った。


「昨日はそのくらいか。おとといは…なんだっけ。何したっけ。」


 リビングのカーテンを開けようと思ったら、昨日から開けっ放しだった。まあ、誰かに見られているわけではない。


「そうだ。来年度の採用人数を…。」


 リビングの窓から朝日が濃度高めに入り込んできていた。光の中に目を向けると何も見えない。なんでこんなにまぶしいんだろう。これから外に出るんだぞ。やめてくれ。


 窓際に置かれたタンスの上に、写真立てが置いてある。光のおかげで何が映っているのかは見えない。まあ、別にいい。見る必要はない。


 そこにあると分かれば良い。


「捨てられないなあ。写真。…いってきます。」


 マンションの外に出て愛車に乗り込む。やけに広い車だ。


 私はあの写真に「いってきます」を言ったのだろうか。

 

 挨拶は、元妻によく教育されたから、簡単に抜け出せるもんじゃない。


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