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小さな依頼者3

すいません、遅れました。

拙い文章ですが、よろしくお願い致します!

 独房の中は薄暗く、天井付近には小さな窓がポツリと口を開けていた。

 よく見れば格子がはめ込まれており、高さから見るに換気用として設けられた窓だろう。

 そこから差し込む光はか細く、部屋全体を照らし出すには明らかに光量が足りない。

 その何とか差し込むか細い光に照らされて、その男は闇から浮かび上がっていた。

 部屋の奥に小さく座り込み、見開かれた眼で私たちを見据えている。


「……」


 ん? 何か喋ったか?


「……、……な」


 私たちに何かを言いかけているようだが、声が細すぎて聞こえない。


「……る、な……」

「おい、どうした?」


 レスターは男の様子に訝しみながらゆっくり近付こうとした。

 その時。


「来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 男は突然大声を上げながら、自分の髪の毛を掻き毟り始めた!


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁ!!?」

「ちょっ、ま、待て! おい!?」


 レスターは男の豹変に狼狽つつも、素早く近付き、頭を掻き毟る手を握り、止めた。

 レスターに握られた腕は震え、指の先にはうっすらと血が付いている。

 薄暗がりでよく見えないが、男の額にチラッと血の跡が見えた。

 今しがた付いたような跡ではない。

 かと言って、一度二度と言うわけでもないようだ。

 考えるに、発作的に頭を掻き毟っているのではないだろうか。

 足元を見れば、ところどころに抜け落ちた毛髪のようなものが散らばっている。


「おい、大丈夫か? 落ち着け」

「あ、あぁ……、あああ……」


 レスターが優しい口調で話し掛けるが、男はどこか怯えきったような態度でガタガタと震えている。

 震えながら、ブツブツと聞き取れない程の声量で、男は何かを呟いていた。


 私はマスターに耳打ちをした。


()()()()()()、マスター」


 私の言葉に、マスターは首をゆっくりと縦に動かした。


「あぁ、()()()()()くらいにな」


 マスターは、大きく目を見開き、この震える男を見据えていた。

 私はそんなマスターを見ながら、先日のことを思い出していた。

 この傍らにいる、少年が訪ねてきた日のことを。


 ーー


「い、妹を助けて!」


 突然事務所の扉を開いた少年、リオは私たちに向かってそう叫んだ。


「ぼ、僕の、妹を……」


 ボロボロと、その幼い瞳から涙をこぼしながら。


「おいおい、少年。いきなり現れて何を言いだすかと思ったら」


 とレスターは肩をすくめながら、ひょうきんな口調で話しかけつつリオに近付いた。

 レスターを見上げながら、リオは目の前に立つ中年の男を睨みつけている。


「そんな怖い顔するなって! 大人はな、子供を守るために……」


 と言い終わらないうちに、リオはレスターの向こうずねをスパーンと蹴り抜いたではないか!



「……っつぁ!?」

「大人は信用できない!」


 リオはレスターを睨みつつ、そう口を開いた。


「そうやって、僕たちを何度も騙してきた! 妹だって……!」

「う、ぬぬ、そ、それは俺じゃ、ねぇだろ……!!」


 蹴られた脛を触りながら、レスターはよろめきながら壁際へと向かうと、そこに置いてあった椅子へと腰掛けた。


「だいたい、大人が何したっつーんだよ!」


 と悪態をつきながら。


「大人は僕たちを利用した。だから、信用できない。か?」


 マスターはゆっくりと立ち上がると、レスターの前まで進み、彼の顎に指を沿わせた。


「え?」

「お前の気持ちを代弁してみた、少年。大人は信用出来ないんだろ?」


 視線だけでリオを捉え、マスターはそう言った。

 すると、先程まで凄んでいたリオはの態度がシュルシュルと小さくなっていく。

 どうやら、彼の目つきより、マスターの威圧の方が強かったようだ。

 まぁ、大人と子供なら、当然と言えるか。


「大人ってやつは、平気で嘘をつくし、約束は破るし、殴るし蹴るし、気に入らなければ理不尽な怒り方をするし……。そういう私たちも大人だがな」


 と少年を見つめながら、マスターは口角をゆっくりと持ち上げた。


「なのに、なぜお前は私に妹を助けろと頼んだ?」

「そ、それは……」

「妹の体調が悪いなら医者に頼めばいい。悪いことに巻き込まれているなら、あそこのヘビースモーカーに頼んで警察の厄介になればいい。それこそ、親にでも頼めば済む話。だが、私のところに来るとなると……」


 そこまで言って、マスターは私へと振り向いた。


「ベン。出掛けるぞ、用意しろ」

「は? お、おい解呪師! 俺の話はどうなるんだよ!?」

「今日は帰れ、レスター。依頼が入ったからな」

「い、依頼だぁ!?」

「さぁ、少年。案内しろ」


 マスターはレスターに向かって一言そう告げ、少年の元へ向かうと、そこへ膝をついた。

 そうすれば、小柄なマスターのことだ。

 少年と視線を合わせることが出来る。


「お前の妹のところへ」


 マスターは優しい声と表情でそう口にした。







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