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今日から七月。この世界に来てから二カ月半程になる。行商人の運んできた噂を整理したところ、プレイヤーの転移は世界的に起きたようで、世界中で食料が不足しているらしい。魚の干物がいつもより高く売れたと、村の人達は喜んでいた。
そんな中、私は今月一杯は『トットリ砂漠ダンジョン』に潜ることにする。ゲームの時と一緒なら、今月採れるものを山ほど採っておけば、来月はちょっとしたお金稼ぎに専念出来るのだ。
道中は避けることの出来ないモンスターとだけ戦闘し、一層の西の端へ向かう。
「確かここに……」
軽く砂を掘ると、すぐに黒いものが見えた。
「……【採取】」
興奮を抑えてスキルを発動し、物体化した黒いものをカゴに入れていく。
この黒いものは、『アカマツの炭』だ。ゲーム中では魔力を帯びないものとしては最上級の炭として扱われ、『トットリ砂漠ダンジョン』ではどういう訳かこの時期は浅い位置から山ほど採取出来るのだ。具体的には、一日にカゴを二回満杯に出来る程度には。
炊事係が火力に腰を抜かすというトラブルはあったものの、途中からは『農民』のジョブを持ち普通のNPCよりは少しだけ強いゴロウを連れてアカマツの炭採取を続けた。七月中頃に来た行商人と大量の薪と少しのアカマツの炭を交換したことで、冬場の燃料の心配が無くなったコヤマ村は、それまでダンジョンで薪拾いをしていた人達を漁に割り振り、魚の干物の増産に励んだ。どうも、『サンイン街道』の東の端『王都キョウト』で全く食料が足りていないらしく、『サンイン地方』の中核都市の『領都マツエ』や『漁業都市サカイミナト』といった『王都キョウト』から離れた、普段は食料の買い付けを行わない都市からも食料を買い取っているそうだ。
「そのうち移民を押し付けられるかもなあ」
ヨシオカは皮肉げに笑っていた。
逃げていて正解だったよ。