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この世界に来てから、はやひと月が経った。私は、出来るだけ人のいない『サンイン地方』に向けて移動を続け、とうとう『日本サーバープレイヤー人口最下位』の村のひとつ『コヤマ村』にたどり着いた。『チュウゴク山脈』越えは死ぬかと思った。
『プレイヤー人口最下位』の名は流石で、プレイヤーのひとりもいない『コヤマ村』はNPCも少なく、私は労働力として大歓迎された。女性とかそう言っていられない程、ここは過疎なのだ。まあ、『トットリ砂海』に囲まれてたら、ねえ。
すぐそこの『コヤマ池』から釣れる魚と村を囲む小さな森から採れる団栗を主食とし、交易用に僅かな梨を育てるだけの『コヤマ村』では、二十代の人は私しかおらず、私を除いて最も若い人でも四十三歳になるという残念具合だ。
そんな私の、村での仕事はというと。
「【採取】」
スキルの発動により、単なるオブジェクトだった『木の枝』が物体化する。私はそれを拾い、背中の背負いカゴに入れる。
「アザミさん。そっちはどうだい?」
一緒にダンジョンに潜っているお爺さんのササキが尋ねて来る。彼の背負いカゴは半分程木の枝で埋まっており、そのせいか彼はしんどそうだった。
「まだまだ『魔力』も残ってます」
「流石、『異邦人』は違うねえ」
ニコニコとササキは笑う。
「じゃあ、ワシは帰るね」
「はーい」
よっこらせ、とダンジョンの入り口に帰り始めたササキと別れ、私は奥へと進みつつ木の枝を拾う。
ここ『練習ダンジョン:森』の一層はモンスターが湧かないため、こうして『ジョブ』を持たないNPCの方でも入ることがあるのだ。『練習ダンジョン』ならばどの『神殿』からでも転移出来るため、村周辺の森を切る訳にはいかない『コヤマ村』の人々は手を無理矢理開けてでもこうして『練習ダンジョン:森』へ潜るのだ。
私の仕事は、それでも燃料が足りずに他の地域から薪を買っている村のために、『練習ダンジョン:森』へ潜り、薪をありったけ拾ってくることだ。ついでに雑魚モンスターも狩れ、そのモンスターの素材も持って帰っているので、村の人達からは感謝されている。『コヤマ村』の神殿からなら、もっと高難易度の『トットリ砂漠ダンジョン』に潜ることが出来るけれど、そこには村が必要とするものは今は無いのだ。
今日もカゴを木の枝で満杯にし、幾つかの素材をウエストポーチに入れて村に帰る。両方を村長のヨシオカに渡すと、何時ものようにお礼を言われ、干物作りを手伝った後、夕方団栗団子と魚のスープを村の人達と食べる。三十人に満たない『コヤマ村』では、こうして全員の食事を作る方が燃料が少なくて済むのだ。
「アザミさんのお陰で助かるよ」
ヨシオカに何度目かのお礼を言われ、その奥さんのサナが補足する。
「薪代だけじゃ無くてね、アザミさんの持って帰って来る『魔石』。あれが税の代わりになるのよ。お陰で今年は梨をもっと売れるわ」
「じゃあ、魔石狙いの方が良いかなあ?」
「いや、薪の方が嬉しいわよ? 何せ、これでもまだ足りない位だからねえ」
「そっか」
やはり、燃料は大切なようだ。