はじまりはじまり
べしゃり、と尻餅を着いた。
「いててててて……」
尻をさすりつつ立ち上がると、どうもここは『夜の神の神殿』のようだった。と言うことは、『死に戻り』したか?
「いや」
それはおかしい。ついさっきまで私は『カプセル』の中で『無限RPG』の第五次大規模アップデートを待ちつつネットサーフィンをしていた筈なのだ。ログインはまだの筈なのに、『無限RPG』の中にいるのはおかしい。
「あのー、大丈夫ですか?」
「え? まあ……」
どこか人間臭げに尋ねて来た神官にそう返し、そそくさと『夜の神の神殿』を後にし、絶句する。
「うわ……」
そこでは、どういう訳か嘆いていたり錯乱していたりする人々で溢れていた。街自体は、いつもの『無限RPG』の私の拠点にしている街『地方都市ヒメジ』だ。だけれど、人々の、プレイヤーと見られる人達が錯乱していることだけは違っていた。NPCの衛兵達はどうしたら良いのか右往左往しており、当てになりそうに無かった。
「……とりあえず、ログアウトするか」
メニューを呼び出し、ログアウトボタンを押そうとして硬直する。
「ログアウトボタンが、無い……!?」
これは錯乱もするか。
* * *
デスゲームだか異世界転移だかはたまた荒唐無稽な夢かはさておき、どうやらログアウトは出来ないらしい。ついでにお腹も空けばトイレにも行きたくなる。
「ふう……」
宿のトイレを貸して貰い、何とか冷静になった私は思考を切り替える。
「ここを現実と仮定して動こう」
メニューの一番安いスープを飲みつつ考える。
「プレイヤーが何人も『転移』してきたのは間違い無い。人通りから考えて、少なくとも『ヒメジ』にいた人は全員転移して来ている。となると、この現象がここだけなのか、全国規模なのか……」
『無限RPG』は世界展開しているオンラインのゲームだ。世界規模でこの現象が起こったと仮定すると、洒落にならない現象が起こる。
「どう考えても食料と燃料が足りなくなる……」
ゲームだった時の『無限RPG』の世界では、野菜や穀物は畑から、肉は『ダンジョン』から得られるものだった。そして、プレイヤー達は食事が必要無かった。だけれど、『ここ』が現実である以上、転移してきたプレイヤー達も食事は必要になる。燃料はプレイヤー達が頑張って『ダンジョン』に潜れば足りるかも知れないけれど、食料はどう足掻いても足りない。総プレイヤー人口五千万人という化け物オンラインゲームは伊達では無いのだ。
そうして、私は決断した。
「良し、田舎に逃げよう」
田舎なら、都市程は食料事情は悪くない筈。急いで、私の『死に戻り』機能のある『夜の神の神殿』のある田舎の村に逃げるのだ!