表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1 「道はいつだって自分で切り開くもの」

 完全に勢いで書いています。いわゆる乙女ゲー転生モノを書いてみたい! という軽いノリです。

 ストックもなく、出来上がった勢いで投稿しておりますので、亀足更新かと思いますがお付き合いいただければ幸いです。

 ――溢れ返る記憶。『最期』の瞬間。一瞬感じたはずの衝撃。


 五歳のまだ舌ったらずの少女の脳裏に、十九年分の人生が走馬灯のように駆け巡る。

 いやあるいはそれは、本当に走馬灯だったのだろう。明らかに身の丈に合わぬ記憶の奔流に、ぐらり、と眩暈がした。

 視界がぼやける。ガンガンと打ち付けるような痛みを覚えつつも、記憶は更に流れ込んでくる。

 その中の自分は、今の自分とは全く違う姿だったし、生きている世界だって、まったく違う場所だった。けれど――それでも直観的に、確信していた。




 あれは私だ、と。




 お嬢様、ツェツィーリアお嬢様。数少ない使用人の声を遠くに聞きながら、ツェツィは思い出していた。


 前世のこと。日本人であった自分の人生。トラックに轢かれそうになっていた女の子を突き飛ばしてあっさりと幕を閉じた。――助けたかったあの子はちゃんと、生きているのだろうか。それを確かめる術はないのが心残り。


 けれど取り合えずこうして『ツェツィ』として生きているのは、もしかすればそうした私の行動を、神様が評価してくださって、第二の人生を与えてくださったということなのかもしれない。そんなことをしてくれる神様が本当にいるのかは知らないけれど。


 体が誰かに持ち上げられる。心配した誰かが、部屋まで運んでくれようとしているのだろう。大丈夫よ私は、そう言いたかったけれど、意識はまだ遠くにあった。


 ――ツェツィーリア。


 その名前を何度も呼ばれ、混濁していく意識の中、はたと気が付いたことがある。

 その名前は、前世で死ぬほどやりこんだ乙女ゲームの主人公の名前だった。




 ――やりこんだ、と言っても。別にやりこみ要素があるわけでもない、普通のノベルゲーム。貧乏貴族の少女が王宮に奉公に出て、その中で出会った人々と恋に落ちるというそんなに珍しくもない王道ストーリー。


 前世の私はわりと、一人推せればそれでオッケー、興味のないキャラは攻略しなくていいや、フルコンプする人はすごいよね、というスタンスで乙女ゲーをやっていたのだが、そのゲームは珍しく隠しキャラ含め全員攻略し、バッドエンドもばっちり回収済み、キャラによっては三度か四度ルートを見返したこともある。スチル表示のあるシーンはセリフが空で言えるくらい。そんなに奇抜な設定ではなかったけれど、堅実なシナリオがツボにはまったのだ。


 けれどこのゲーム、星五つで評価をつけるとすれば星五とはいかなかった。


 もちろんそれだけやりこんだだけあってシナリオは気に入っていた。キャラも好きだったしイラストはビジュアルファンブックを購入した上で担当イラストレーターさんの画集まで手に入れた。音楽だってよかったし主題歌のCDは当然買った。


 じゃあ、何が悪かったかと言えば。


 とあるキャラが、攻略できないバグがあった。


 ゲームの攻略対象は五人だ。この国の王太子様。その腹心であり次期宰相。王宮に仕えるいまだ未熟な騎士。同期の料理人見習い。そして隠しキャラとして、いないことになっている王太子様の弟。


 ではバグは誰のルートにあったのか? というと――別に誰のルートでもない。そもそもフルコンプができる時点で攻略不可能なバグなんて存在するはずもない。というかコンシューマーゲームにそんな重大なバグはそうそうない。


 そう、バグなんていうのは単に一部ファン界隈で言われていた冗談交じりの言葉。




 前世の私の推しは、そもそも攻略対象外だった。




 まあ――ある程度は仕方ないよね、などと、ベッドでうつらうつらとしながらツェツィは思う。


 主人公は十六歳。それに対して推し――騎士団長・グスタフ=ボーデヴィヒ様はアラサーどころかアラフォーだった。娘でもおかしくないような年齢なのだ。この国は結婚出産が日本の常識に比べてずっと早い――前世の時代から七十年も遡れば大差なくなるのだろうけれど――から、四十手前であれば十六の娘がいたって何らおかしくはない。むしろある程度の階級ともなればいて当然とも言えた。

 けれど騎士団長様は独身だった。妻に先立たれたとかでもなく、まさしく独身。国王に剣を捧げた男。


 それなら攻略対象になっていてもいいんじゃない? と前世では思っていたけれど――実際その年齢って、あんまり一般ウケしない。

 昨今(というのもなんだか変な話だが)、オジサマというジャンルは開拓されだしていたけれど、やっぱり主流は二十前後のイケメンなのだ。


 しかしながらツェツィは前世でオジサマキャラが好きだった。イケメンが嫌いなわけではないし推せるけど、オジサマがいるならオジサマがいい。

 ……しかも面倒なことに、彼女は二十後半で『おじさん』を名乗ることは許さない派閥であった。生半なおじさんではそもそも満足できない。


 そんな中現れたアラフォーのナイスミドル騎士団長。推さないわけがなかった。


 なかったのだが――攻略対象ではなかった。


 何度も何度もやり直したのは、騎士団長ルートが隠しで存在していると信じて疑わなかったからだ。何度も何度も繰り返して――フルコンプリートの証たるトロフィーが表示されてしまって――ようやく封印していた攻略サイトを見て愕然とした。推しのルートがない。


 その後色んなサイトをめぐり、同好の士が生み出した騎士団長ルートIF作品を読み漁ったけれど、やはりそれが公式ではないという事実は変えられず。どれだけ素敵なイラストがあってもボイスはなく。


 悲しみに暮れていた。移植かファンディスクで騎士団長ルートをくださいとハガキを送ったが、実現するところを見ないまま前世は終わった。


 ――そうして、今世。




 ツェツィーリア・フンボルトは、ベッドの中、人生の前半戦における一つの目標を見出した。

 すなわち。


(きっとこれも神様の思し召し――ぜったい、ぜったいにグスタフ様と結婚してみせる!)


 この時以降、彼女は淑女教育を熱心に受け、また家事を含む雑用能力を飛躍的に伸ばしていく。すべては十一年後、王宮の奉公に出された後、グスタフと結ばれる可能性を少しでも高めるためである。

 どうやったら彼のルートに辿り着けるかはわからないけれど。やれる限りの精一杯をするために、今からできることはしておこう、と。

 貧乏貴族の三女である自分が、王宮に仕える騎士団長様と事前に関わり合いになることはできない。だから、王宮に勤め始めてからが勝負。


 そう信じて、彼女はその時を心待ちにしていた。




 乙女ゲームはともかく、恋愛経験値皆無である自分が、はたしてそれを実現できるのか――なんて。

 この時の浮かれたツェツィは、ちっとも考えていなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ