59話 頂魔四天王の追求は容赦ない!
第一種目の全試合が終了し、ドーム内は未だ興奮冷めやらない状況だ。そんな中、客席の後方の通路を歩く集団があった。周りの者達は彼等の行く道を空けるように避けていく。だが本人達はそんな事に気付くこともなく、平然と歩く。
「おいレッド……あんなんで大丈夫だったか?」
「……そうだな。及第点と言ったところか。お前にしちゃ頑張った方だと思うぜ。全く…見た目と魔力を見ればこの世の誰よりも厳つい男の筈なんだが…その内気な性格はどうにかなんねぇのか?」
「す…すみません…」
ワープラ村の選手達はレッドガードとジンスラを先頭に歩いていたが、しばらくしてジンスラがその足を止めた。
彼の正面に立ったのはサリー・フリーア…………と俺、江口颯太であった。
「そこをどかないか、田舎者の小娘。」
レッドガードは鋭い赤い眼光で俺達を睨んだ。小柄であるがため、その視線は下からであったがそれでも凄い威圧だ。
しかし負けじとサリーも
「四天王様に全部丸投げして何もしてないチビが調子に乗らないで。」
「チビだと……おいクソブス……殺すぞ?」
「何か言った?短足君。」
「もういっぺん言ってみろぉぉ!!!このアホ娘がぁぁぁっ!!!!」
「何回でも言ってやるわよ!このクソガキぃっ!!!」
うっわ…………醜いな……
サリーとレッドガードは取っ組み合いの喧嘩を始めた。髪を引っ張りあったり単純にポカポカ殴りあったり、まるで子供の喧嘩だ。
「あの……僕の物知らずが大変申し訳ないのですが…あれって止めなくて良いんですか?」
俺は後ろでニコニコしながら眺めていた中年の女性選手に耳打ちした。
「あぁあれは大丈夫だよ。レッドとサリーちゃんは魔法学校で一緒のクラスだったの。まだ可愛かった頃は本当に仲が良くてね、思春期入ってからこんな感じだけど、きっとまだ思春期なのね。仮面の兄ちゃんもまだまだ若そうね。若いっていいものねー」
『彼女27歳です。』と未だニコニコと笑っているマダムにツッコミたい。
とりあえずの所、派閥的な対立でないことがわかって安心した。さてさて…長く掛かりそうだしここはお先に…
「ちょっと待ってくれ。」
サリーを置いて客席に帰ろうとする俺にジンスラが声を掛けてきた。相変わらずよく通る声だ。
「な…なんだ?確か…ジンスラだったよな?」
「仮面の男ソータ。さっきの試合を見た。お前、なぜ魔法を使わなかったのだ?魔法を使うべき場面はいくつも合った。だがお前はことごとくサーリスを盾にしながら逃げた。どうしてだ?」
ジンスラは2メートル近い目線から俺を見下ろした。レッドガードよりもさらにグレードの高い威圧を感じる。
「え、いやぁ…そう言われましても…」
ヤンドル村の最大のライバルを前に『魔法が使えません』なんて口が裂けても言えない。
「その……今日は魔法の調子が悪くて…」
「二十歳を過ぎた大人が魔法の調子を気にする?そんなことありえない。お前、何を隠している…?」
「何も隠してないさ、疑わないでよアハハ」
や…や…やっべぇ…、こいつ勘が良すぎる。というか、普通に頭の回転が早い。これ以上の言い訳は墓穴を掘りかねないぞ江口颯太。
ここはさっさと離脱しよう。
「まぁ話はまた今度にでも…では…」
「だからちょっと待てと言っている!」
「う…!?」
冷や汗が止まらない。額から仮面の中にタラタラと垂れてきて気持ちが悪い。緊張感に押し潰されてどうにかなりそうだ。
頼む!神様何とかしてくれ…!
ドドドンッ!ドドドッドドドッドドドンッ!
ドーム内に響いた太鼓の音、俺にとっては地獄から解放される天使の歌声のように聞こえた。
〔さぁ大変長らくお待たせしましたぁ!!第二種目の発表です!次の競技はこれだぁっ!〕
司会者の高らかな声と共にドームの天井のスクリーンに表示されたのは
『モンスター狩り』
という何とも意味深なタイトルであった。
「モンスター狩り…ストラシアの魔法使いがどの程度のモンスターを捕獲できたのか気になる所だ。」
「おいジンスラ、何もかも試すような目で見てんじゃねぇよ。早く試合の準備すんぞ。おいクソブス!試合で当たったら容赦しねぇからな!」
顔が傷だらけのレッドガードは同じく傷だらけのサリーを力強く指差す。サリーは空かさず頭の悪そうなあっかんべーで返したが、それ以降のやり取りはなかった。
「ソータ、すまないが話は後だ。」
「あ、あぁ…」
ふぅ……助かったぜ全く…
「待て…最後に一つだけどうしても聞きたいことがある。」
「え?」
今度は何を…
「お前の体から漂う異質な魔力、それは一体何だ。」
「異質な……魔力…?」
一体何を言っているんだ…?
「おいジンスラ何してやがる!時間ねぇんだから急げっ!」
「す、すまないっ!じゃ、じゃあソータ、また後でな!」
頂魔四天王、龍槍のジンスラは謎のセリフを残し、去っていった。俺にはその言葉の意味は理解できなかった。だがただ流すことは出来ず違和感だけが残ったのだった。




