57話 エースの離脱は問題じゃない!①
「あぁ…サリーよ!なぜなんだ愛する我が妹よぉ!どうして俺を置いていったんだぁ…」
サーリスは膝を落とし、地面を拳で思い切り叩きつけた。何度も何度もこぼれ落ちる涙と共に。
「いや、お前が言ったからだろ。」
呆れたというよりは完全に引いているシルバードが空かさずフォローを入れるが
「普通そこは『兄さんを置いてはいけない、私も残って戦うわ!』じゃないのか!?テンプレはどこに行った!というかテンプレとは一体なんなのだ!!」
「それは哲学だ。」
「俺は…俺は…一体どうすれば…うらぁぁ!!」
一瞬止まった地面叩きが再スタートする。発狂しながらひたすらに叩き続けた。広場の中心近くで戦闘中だったはずの指揮官とセバスチャンもこれには目を見開いた。
「えぇいっ!尺が長いわ!大陸最強の威厳…というか、キャラを忘れるなぁ!!」
なぜか死亡シーンを待つ優しい敵キャラの如く、サーリスを見守っていたシルバードであったがさすがに限界のようだ。堂々と背中を向けるサーリスに対し銃口を向け
「終わりだ最強の男」
引き金を引いた。
放たれた魔法弾は背中の中心を確実に捉えた、ように見えたが…
「反射!」
着弾のタイミングで背中に小さな魔方陣が現れ、魔法弾を跳ね返し今度は撃った本人目掛けて放たれた。シルバードは体を回し反射弾を避けたが、それを詠んでいたサーリスはバランスを崩したシルバードに急接近した。が、サーリスの動きに気付いたシルバードはすぐに銃の照準を合わせた。そして両者は膠着状態となった。魔力を込めたサーリスの手がシルバードの胸に、引き金に指を掛けたシルバードの手がサーリスの頭に、それぞれ発動準備は整っていた。
「やるじゃないか大陸最強の一人シルバード・セルバル。俺はこういう高いレベルの闘いをしたかった。最近やった『毒舌の紛い貴公子』はどうも張り合いがなくてな。」
「奴は常に適当な男だ、本気を出すことなんて稀だろう。」
「そういえばそんな奴だったかもな。」
「さぁどうする、どう足掻いても共倒れだ。私としてはここで怪我でもしてこれ以降の種目に支障をきたしたくない。だから私はここで降参を宣言する。これはお前にも得な話だと思うが?」
「怪我もせず、無駄な魔力も使わなくて済む。だが優勝候補一角のエースであるお前の戦力を削れる最大のチャンスを逃すということにもなる。嬉しいことに今年のヤンドル村には俺の天才息子と妹、それに最強の助っ人がいる。」
「なるほど、エースがいなくても余裕で優勝を狙いにいけるということか。それは悲しい話だ。さて、他にまだ話すことはあるか?私は特にない。」
「じゃあ俺から一つだけ。前から思っていたがよくある、敵キャラの優しく待つ行為は本当に墓穴を掘るらしい。お前のおかげで再確認できた。」
「どういたしまして、私もこれから気を付けよう。」
二人は同時に魔法を放った。サーリスは最高火力で胸へ、シルバードは最高威力で頭へ。至近距離でぶつかり合った高魔力は爆風となって牢屋を残して辺りの家屋や木々を残らず吹き飛ばした。セバスチャンも指揮官の男も、倒れていた者たちも風をもろに食らい、十数メートル近く飛ばされた。
「くそっ!なんつう威力でぶつけやがる!」
「指揮官殿、早く他の方々に防御魔法を張ってください。このままでは怪我では済みませんよ。」
「わ、わかった…」
煉瓦の壁を風避けにしながら、セバスチャンと指揮官は今にも飛んでいきそうな戦闘不能の者達に防御魔法を掛けた。
しばらくして風が止むと広場には小さなクレーターが出来ており、そこに傷だらけになりつつも五体満足のサーリスとシルバードが倒れていた。
「両とも攻撃をうまく流しましたな。さて指揮官殿、主が戦闘不能となった今、私の闘う理由は無くなりました。ここで失礼いたします。」
「はぁ…?」
セバスチャンは倒れているシルバードを抱えるとゆっくりとフィールドの外へと歩いていった。呆気にとられていた指揮官であったが
「帰ってきたぞ銀髪野郎!さぁサーリスさんの敵をとってやるぞぉ……ってあれ?一人しかいないの?あ、サーリスさんが倒れてる。」
「に、兄さんっ!」
到着した新警察チームによって今度は変わって包囲された。
「援軍が来てしまっては何も出来ないな。我々の敗けだ。…………降参だ。」
指揮官は広くなった広場に座り込み、両手を上げた。その瞬間、新警察チームは両手を上げて勝利を祝福した。観客席からは歓声ら指笛が飛び交った。
ここに一種目目の第一試合が終了した。勝者はヤンドル村、他3チーム。




