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俺は「エロ神」じゃない!   作者: 柳原テツロウ
二章 魔法世界編
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56話 俺は普通の主人公じゃない!

 「くそ…!これでも食らえ!」


「あーもう!無理よこんなの!」


「二人とも頑張るんだ、きっと救援が来る!」


敵十数人に八方を囲まれ、俺達は放たれた魔法弾をただひたすらに避ける状況だ。俺はサーリスさんの背中に隠れ、隙を見ては敵に向かって爆弾を投げ込む。


「さっさと降参しろ、人数的に見てもそちらに勝機はない。」


敵の指揮を執る眼鏡をかけた男がさっきから降伏勧告を続けている。敵はじわじわと俺達の背後の牢屋へと迫って来ており、勝敗は既に決していた、ように見えた。


「マジメス村の者よ。ここは一旦下がってはくれないか?」


「シルバード、お前何をするつもりだ?」


「このまま力で押しきれば私達の勝利は歴然、それでは観客も盛り上がらないし、選手自身も楽しめないというものだろう。ここは一つ、私とサーリスの一騎討ちを…」


「ふざけた発言は控えるがよい。勝利に必要なのは確実性である。私情からの余計な戦闘は不必要だ。。」


「なるほど。つまり前半で自らの指揮で過半数の味方を沈めたのは勝利に必要だったということか?」


「き…貴様…!」


「下手な統率で二つのチームの離脱を許し、尚も本陣で沈黙を続けた。牢屋が相手のいる西側に現れてたら敗北路線から外れることはほぼ無かったな。」


「運も実力だ。我々は運を味方につけ、今こうして敵を討ち滅ぼさんとしているのだ。これ以上の暴走を認めるわけにはいかない。」


「認める…?この私が貴様ごときに何を認められる必要があるのだ。味方とはいえ、少々邪魔が過ぎるな。しょうがない、消えてもらうとしようか。セバスチャン。」


「はっ」


シルバードとセバスチャンはそれぞれ銀のスナイパーライフル、両手小銃を向ける。


「仲間に銃口を向けるとは愚かな…!」


対するマジメス村の者達も腰の鞘から鍔が金色の剣を抜く。十数人と二人が睨み合う。その間攻撃は止み、俺達はその異様な光景に驚きを隠せずにいた。


「これは幸運な展開だが……見ていて気持ちのよいものではないな。ソータ君、君はよく見ておくと良い、彼等の仲間割れを。」


仲間割れ、競技において最も非効率かつ無意味な行為だ。現世においても仲間割れや裏切りによって幾つもの国家が滅亡に追い込まれた。可能性の保有としてはモンジル教団とて例外でない。


「これはマジメスの意地だ。何としても奴を潰せ、正しいのは我々に害をなす者、それはつまり敵である。二人は拘束し、そこの牢屋にくくりけてやろう。戦闘配置につけ!」


マジメスの指揮官が手を振りかざすと十数人が一斉に四方八方に離散し、一瞬で二人を囲んだ。セバスチャンは両手の銃を左右にそれぞれ向け、シルバードは依然として指揮官へとその銀の銃口を向けていた。


「さぁ降参しろ、我々の『魔剣』の射程は約20メートル、この距離ならまぁ外さない。貴様の『魔銃』の性能に比べたら粗末なものだろうが、どうだ?人数で囲めば銃に勝ち目はない。」


指揮官は腕を組み、シルバードに渾身のドヤ顔を向ける。対するシルバードは表情一つ変えずに銃口をただ真っ直ぐ向ける。


「後で存分に後悔するがよい!総員かかれ!」


十数人が一斉に二人に突進して斬りかかる。しかし、シルバードは地面へ銃を向け引き金を引いた。


「な、何をするつもり…!!………」


爆風が治まり、ようやく視界が晴れた指揮官であったが、彼が見たものは斬りかかった者達が傷だらけの姿で無惨に転がっている光景だった。


「全滅…!?」


シルバードは銃の先を地面に突き刺すと腕を置いて大きなあくびをし、目からでた涙を胸ポケットから出したハンカチで拭く。


「さすがに防御魔法を一つも張っていないとは予想外だった。加減を間違えしまった、すまないな。それと……私は退屈している、悪いがお前の処理はセバスチャンに任せる。」


地面に深々と刺さった銃を抜き、指揮官には目もくれず、コッソリ広場を出ようとしていた俺達を睨んだ。鋭い眼光で背筋がゾッとし、俺はそこから動けなくなった。


「万事休す…だ」


「バレてる…バレてるよ…兄さん…!」


「さすがは『爆銀の狙撃手』シルバード、セルバル。俺の『どさくさ紛れて逃走作戦』略してDMTを見破るとは…」


「サーリスさん、ネーミングセンスの欠片もありませんね…と、とりあえずヤバそうだから…逃げましょう…!!」


今度は全力で地面を蹴って逃げ切ろうと試みたが、逃げようとする俺達の顔の前を銃弾が通過した。横目でソッとシルバードを見るとさっきよりも殺気の増した顔で銃口をこっちに向けている。


「やばばばばば……兄さん兄さん!なんとかして!私達木っ端微塵になっちゃう!」


「落ち着けサリー、手がないわけじゃない。ここで二人を味方の陣地に転送する。そしたらすぐに援軍を連れて戻ってきてくれ。それまでシルバードは俺が引き受ける。」


『引き受ける』、なんとカッコいいセリフだろうか。ここは『俺も戦う』ってのが主人公としての定石なんだろうが、俺はルールに縛られない男だ!『普通』反対!


「ではお言葉に甘えて!」


「あれぇ…思ってたのと反応が…違うな…」


「じゃあ私もそうする。兄さん頑張ってね。」


「ぐぁぁ!?サリーお前もか…」


カエサル顔負けの最後であった。シスコン選手権大陸代表サーリス・フリーア、ここに死す。


「「じゃあ!」」


「お達者で………転送」


笑顔で手を振る俺とサリーを見送ったサーリスであった。シルバードに対し、完全に背を向けながら鼻水を垂らしながら泣いたのだった。

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