49話 俺の知ってるサリーじゃない!
サリーの放った神魔法は敵数人を沈め、フィールド全体に爆風を散らした。町中のガラスが一斉に割れ、教会に張られたバリアもガラス同様に崩壊した。
「おいおい…これやり過ぎでしょ…」
数秒前に魔方陣があった所には、その代わりに巨大クレーターが残り、クレーターの反対側では警察側の選手たちが背中を向けて退却を始めている。全員、ひどく混乱している様子だ。
「なんという攻撃力、さすがは天神の力、反則級だ。そしてその力を使いこなす我が妹、兄として誇らしい。」
前線から避難してきたサーリスさんが爆風を浴びながら立ち上る土煙を見ている。膝まで延びた服の裾が風を受けてなびく。
「俺もそう思いますよ。是非大会規約で取り締まってほしいとも思います。」
全く…魔法使いなんてのはめちゃくちゃだ。毎年、こんな危険なこと繰り返して…。俺もどうなることやら…
「ソータ君、大丈夫か?まだ試合は始まったばかりだ、無理はするなよ!」
したくないのは山々なんだが、環境的にそれは厳しいだろうな。
「よし!次は我々から攻め込むぞ!俺に続け!」
泥棒チームの大半がサーリスさんの後に続き、敵の陣地に向けて進軍を開始した。俺はとりあえずの安全確保のために集団の最後尾をゆっくりと歩いた。横を見るとグッタリとした顔のサリーが俺と変わらないスピードで歩いていた。
「やる気満々だったお嬢さんはどこへ行ったんだよ。どーせ後のこと無視して魔法撃ったんだろ?」
「ち、違うわよっ!神魔法ってのは難しいの。威力やタイミングの調整に他のものとは桁外れの複雑な行程を完璧にこなさなきゃいけないの。」
「で、今回はその威力の調整とやらをミスって、魔力のほとんどを使い果たして、その状況というわけ?」
「そ……そうですけどっ!!なんか、文句ある!?」
「いえ、ございません。」
サリーは鬼のような形相でずっとこっちを睨んでいる。相当悔しいらしい。まぁ失敗したと言えど多くの敵をたった一発で葬れたことだし、相手への牽制なったと考えれば十分な活躍だ。
「よくやったんじゃねぇの?俺にはよくわからないけど、努力してることはわかったよ。ここ最近、色々とごめんな。少し反省した。」
「ふぅーん?口よりも行動で証明して欲しい、なんて思うけど、あんたにしては優しいから信じてあげる。私もキツイ言い方してごめんね…」
あぁ…サリーと初めて会ったころに感じた懐かしい感情だ。こんなにこいつ可愛かったか…?
「えっと…だから…この大会が終わったら二人でどこか行…」
照れながら恋愛モノのテンプレセリフを話そうとするサリーの声を聞き逃さないように集中して耳を済ましていたその時、観測史上最速のフラグ回収がおきた。




