43話 俺はピエロじゃない!
「『タキツーボ』!!『タキツーボ』!!『タキツーボ』!!」
「その調子で続けるのじゃ!!」
「はいっ!」
今、俺は10分で魔法を使うという極悪レベルの試練と闘っている。この試練をクリアするために村長の指導を受けているのだが…
「あの、村長?さっきから思ってたんですけど、この叫ぶだけの練習に意味あるんですか?」
「叫ぶことで今まではしなかった魔力を放出するという行為を促す効果が期待されるのだ!」
そんなコマーシャルみたいな村長の話を聞きながら、俺は叫び続けた。
「『タキツーボ』は水属性の初級魔法だ。体で水を作って放出するイメージを持て!!」
「そんな事言われてもわかんないですよ!!」
「できる!昨日の検査結果が正しければお前の魔臓はかなりデカイ筈じゃ!魔臓の存在を意識しながら、魔力を絞り出せ!!!」
さっき『あの方法』とか言ってたから期待してたけど…この練習、マジで意味あるのかな…?
でもって、5分後
「はぁ…はぁ…も、もう…声が…出ません…」
「踏ん張るんじゃ!!開会式まで残り2分ないぞ!!」
「くそっ、タキツーボ!!タキツーボ!!」
何度叫んでも、仮面の空気口から掠れた声が響くだけだった。村長も顔をしかめ、目線を地面へ落とした。もはや、これまでのようだ。
「村長…俺なら大丈夫ですよ、多分ボコボコにされますけど、長くても全治二週間くらいですよきっと。」
「半年…」
「え?」
「過去最高の入院期間は3年じゃ。」
「ご、3年!?」
聞いてねぇよ!!3年!?バカじゃねぇの!?
「死人も出てる。」
「し!!??」
もう一度言うけどバカじゃねぇの!?何で死人が出るんだよ!?
「300万サルトを払って生き延びるか、それとも死を覚悟に大会に出るか、決心せい!!!」
さっきまでお前を魔法使いにどうたらとか言ってたのに数分でこれですか…。まぁ、二択しかないのはわかっているし、選ぶ方も勿論
「300万サルトなんて天文学的な金額、払えるわけないですよ、出ます!!!!」
そうだ、いざって時は神の力を魔法っぽく使って戦えばいいじゃないか!チートかもしれないけど、これは闘いだ!勝利が全て!!
「チートとはなんじゃ?エロ神。」
あ、そういえばこのお爺さん心が読めるんでした…
「ベテラン魔法使い達が審判してるんじゃ、魔力感知の有無ですぐバレるに決まってろう。」
「やっぱダメですか…」
「まぁ、その審判の一人にワシがいなかったらの話じゃが。」
「!?」
このじいさんまさか…
「そのチートとやらにワシが協力してやろう。」
やっぱり…
「本人が潔く諦めようとしてるんだからオーソドックスな不正行為止めましょうよ。」
「止めん!!よくよく考えればワシ自信も絶対勝たねばならぬ!!あの憎たらしいワープルの狸に一泡吹かせてやるんじゃ!!!」
村長の声が審判席に響き周りの視線が集まる。そして数秒の沈黙の後、村長がゴホンと咳き込み、再び
「あの憎たらしいワープルの狸に…!!」
「はいはいっ、わかりましたから!!しぃっー!!!」
あー、やべ。仮面つけてるせいで余計目立ってるじゃん俺。で、よくみると審判席の隣の観客席の数人の若い女性たちがカメラの様な魔道具でこっちをパシャパシャ撮ってやがる。
「あの…盗撮は止めてもらっても…」
片手を前に出して、写真を撮るのを止めてほしいという素振りをしてみると
「きゃーみてみて!あのピエロが注意してきたよ!」
「ほんとウケる!!!」
「大会で盛り上がっちゃってる人、たまにいるよねー!!」
「あ、なんかシュンってしてるぅ!!!」
うぜぇぇっーーー!
てか、このピエロみたいな仮面、本当なんなんだよ!!これ以外にもっとましなのなかったのかよ!!
「あの…村長。開会式行ってきます…」
「おぅ、お前も不運だな。」
「はい…」
俺は仮面から溢れる涙を顎らへんで拭いながら選手入場門へ走った。




