4話 コイツは存命じゃない!
俺は今、サリーと共にホテルの前に立ち旅立とうとしている。背中に荷物を背負い、東を目指して一歩を踏み出す。
「確か、東部には四大勢力の一つのモンジル教団ってのがいるんだよな?危なくないのか?」
「安心して、モンジル教団は戦争を好まない平和主義団体よ。それに私の故郷の村長がモンジル教団の司教様と知り合いだから、何かと行きやすい場所よ。」
「なるほど…」
「それにしても、旅の行き先、私が決めちゃってよかったの?」
「あぁ、俺この大陸についてなんも知らねぇからな。アハハ…」
むしろ決めてもらって助かった。にわかな知識で変な所に行って危険な目に合いたくない。
「そうよね、じゃあ早速私の魔法で移動しましょうか。」
「ちゃんとモザイクかけろよ。」
「ル○ラ!!」
中央部東部の町、『リーバス』へついた。煉瓦でできた昔ながらの町並が特徴で、歩く人々の服装も古代ヨーロッパのような地味な色の布を巻いたようなものだった。
「リーバスはトウキオから約50キロ離れた町で王国の古い町並みがまだ残ってるの。それなのに色んな施設があって結構便利な町なの。」
「別に雰囲気は嫌いじゃないな、人も良さそうだし。で、この町で何すんだ?」
「仲間を探すの。二人だけで旅しようなんて無理な話よ。それにしても…どうやってその仲間を探せばいいのか…。」
「えっと…ギルドみたいのにいけば…?」
「あ、ナイス!その手があったか!」
やっぱあるんだギルド、異世界といったらやっぱりこれだよな。
「じゃあ早速調べましょう!」
近くにあった案内板の地図を見て、ギルドの場所を探す。
「あったわ。ここからすぐ近くね、そこに行きましょ。」
依頼人が発注したクエストという依頼を冒険者に提示し仲介をすることで成り立つ、いわば便利屋の取引所である。リーバスのギルドには総勢200名の冒険者が登録されており、その実績は大陸でも有数のものらしい。
「うぉぉ…!立派な建物だなこれ。」
「確かに…噂に聞いてはいたけど、これほどまでとは…」
古代ローマのような白い柱に特徴のある外観、入口に構えた黒々とした扉、そして建物前の広々とし緑溢れる庭園、全てが合わさることで表現するも難しい美しさに栄えさせている。
「さて、早速中に…」
すると突然、ギルドの扉が勢いよく開かれ、中から数人もの男達が飛び出し、ドタバタと庭園の石畳を駆け抜け、俺たちの横を走り去っていった。
「騒がしいな、なんかあったのか?」
「ギルドの人にでも聞いてみましょ?」
「あのすみませーん」
警備員らしき鎧を来た兵士にサリーが話しかける。
「何かあったんですか?」
「君らはお客かい?」
「そうですけど」
「お客さんには関係ないことなんだが。いやぁ……また出たんだよ『怪盗ジェス』が。」
「怪盗!?」
「夜な夜な民家の台所に現れてはブツブツと何か話しているらしい…。つっても、まだ一回も盗みはしてないから、証拠という証拠も薄い。」
「どういうことだ?」
「なんとジェスの体はすり抜けるんだ。だから潜入できても物に触れられないんだよ。でも奴には剣も銃も効かないから、捕まえることもできない。」
「す、すり抜ける!?こ、こ、怖!?」
「あんまし、関わりたくないわね。」
「危害がないとしても奴のせいで町の人達が怯えているのは見過ごせない。近づかない方が身のためだぞ?」
「忠告ありがとうオッチャン。でも少し興味がある、それにどうせ触れないんだったら大丈夫だろ。」
「えぇー!『興味ある』だなんて、そんな主人公みたいなセリフやめなさいよー。」
「主人公だよ!!」
早速張り込みでもしようと怪盗ジェスが現れたという町外れの工場へやってきた俺達。しかし事態は急展開を見せる。既に数人の男達が武器を手に持って何やら走りまわっている。
「お前が現れて約二年、この日を待っていた!俺達はついにお前の弱点を見つけた!それは魔法だ!ギルド選りすぐりの魔法使いを集めた!長い長い戦いの日々も今日で終わりだ!」
「魔法射撃部隊、前へ!」
数人の者達が工場内を飛び回る『何か』に向かって手のひらを向ける。すると手のひらは次第に光始め
「撃てっ!」
無数の閃光が『何か』に向かって放たれる。そして一瞬動きを止めた『何か』に対し、他の数人がさっきとは違う魔法を放った。魔法は網のように広がり、『何か』をしっかり包み込み、そのまま地面に落とされた。
「やっと捕まえたぜジェス。どうだギルドのメンバーが総動員で開発した新魔法、『幽霊ホイホイ』の力は!」
キラキラと光る網の中には一人の女の姿があった。長い黒髪に紫の瞳、スタイルも良く、スカートから伸びた白い足、紛れもない綺麗な女性であった。
「魔法で作った網で包めば、お前は地面をすり抜けて逃げることも飛んで逃げることもできない!俺達の形だ!」
「くそっ…ギルドの獣どもが!!」
どうやら口はそこそこに悪いようだ。ジェスは魔法の網の中でこれぞとばかりに暴れ、未だに魔法の維持のために魔力を送り続けている魔法使いの額からは汗が出ている。
「お前の今の立場わかってんのか!!ゴラァッ!!いい加減に諦めろ!!」
「諦める!?ふざけんな!」
ジェスはまだまだ暴れます。
「やばいぞ、このままじゃ網がもたない!」
と、言うのはさっきまで『撃てっ!』とか言っていた彼だ。頭を抱えて絶望の表情だ。
「え、魔法隊隊長、マジか?」
「ま…マジです」
「と、とりあえず!押さえろ!!」
しかし
「失敗は一度までだ!ここは逃げさせてもらおう。」
「待て!!」
網はパンっと弾けるように消え、ジェスは直ぐ様近くの壁に向かって突進、脱出するつもりだ。だがその瞬間、ジェスに粉のようなものがかけられた。
ガンッ!!
「痛ったぁぁっ!!え、なんで!?」
ジェスは壁をすり抜けることができなかった。
「やっぱり効いたな塩。」
俺の手にあるのは塩と書かれた袋、そこからさらに塩を掴み、ジェスの顔に向かって投げる。
「ぺっ!ぺっ!しょっぱい!!」
「お前、幽霊だろ。すり抜けるとか幽霊キャラの必須事項だし。勘だったけど、俺の故郷じゃ徐霊とかに塩が使われるから、近くのお塩屋さんで買ってきた。」
「き、貴様!」
「あのすいませんギルドの方々、ここはちゃんと責任とってうまくおさめるんで俺に任せて貰えませんか?」
「どこぞの誰かもしれないお前にか?」
「いいんじゃないか?ジェスを止めてくれたのも彼だしは私は認めてもよいと思うぞ?」
「お前がそう言うなら仕方がないな。ここはお前に任せるぞ青年。全員、引き上げるぞ!」
ギルドの者たちが工場を後にすると、入り口に立っていたサリーが俺の前に座り込むジェスの目線に顔を下げ
「で、この人のどうするの?」
「なぁ?サリー、お前って料理できたか?」
「え、そんなのできるわけないじゃない。」
「そんなサラっと言うなよ。まぁそういうことで。ジェスだっけ?俺たちの旅についてこい。で、料理つくれ。」
「はぁっ!?なにいってんだよ?お前らのために料理なんて!!わ、私には…もう料理は…」
「とりあえず、ほれ。」
俺は色々と食材の入った袋をジェスに差し出した。
「え」
「ちょうど昼時だ。これでなんかつくってみろ。」
「嫌だ!!そもそも私は物に触れられない!包丁すら握れない…」
「塩塗ればいけるだろ?」
「あぁ、その手があったか。」
「オイオイ」
「しょ、しょうがない。つくってやろう、料理!」
近くのレストランのキッチンを借り、ものの30分ほどでジェスの料理が完成した。
「うぉぉ!!なんだこれ!」
「ど、どうぞ…召し上がれ…」
テーブルの上には食欲をそそる、まるで高級ホテルのような食事が並んでいた。早速、『いただきます』を叫び、俺とサリーは食べ始める。
「こ、これ!?私のホテルの味にも負けないわ!いや…悔しいけどそれ以上かも…」
「うまっ!!うめぇぞ!!」
「私を誰だと思っている。これでも生前は三ツ星ホテルでコックやってたんだからな。」
あまりの衝撃発言に二人の箸が止まる。
「う、嘘!?ソータ知ってたの!?」
「なわけっ!!台所に現れるっつうから料理へ対する未練があったのかとは思っていたが…ここまでとは…」
「なんで怪盗なんかやってたの?」
「それは…」
ジェスは椅子に座ると、自分の過去について話し始めた。
「私は12年前の戦争で死んだの、攻めてきたローブ帝国によって。」
お前も犠牲者か…
「それでも何故か、完全に死ねなくて。幽霊として生きるはめになったの。それから何度も料理をしようとしたわ、だけど包丁は握れなかった…」
「それで泥棒を?」
「あぁ、私の体は飯を食うことさえできなくなっていた。だから人々を驚かしたりして満たされない気持ちを押さえてた。結果、私は『怪盗』と呼ばれるようになった。」
「なるほどな…」
「でも、今日お前が塩を塗れば物に触れられるということを教えてくれた!包丁を12年ぶりに握れて嬉しかったよ。」
「で、どうすんの?」
「せっかく包丁を持てるようになったんだ。ここで料理をしなくてどうする。いこうお前の旅に!」
「よっしゃぁ!いいよなサリー?」
「幽霊が仲間か…、面白いからいいんじゃない?まぁギルドには後で報告に行きましょう。謝罪も含めてね。」
「うん…」
ここにジェスが料理人として新たにパーティーに加わった。これで俺のパーティーには女子が二人、後一人いれば完全なハーレムだ!
俺ののハーレム計画も動き始めたのであった。




