32話 望む世界は平和以外ない!
ヨクセルに戻ってきた俺はパールを連れ、家の玄関を開けた。
「ただいまぁ…え?」
腕を組み、俺を睨むサリーとジェスがいた。
「えっと…俺なんかした…?」
「おいエロ神、このぬいぐるみはなんだ?」
サリーがそう言うとジェスが美香さんと翔弥さんのぬいぐるみを突き出してきた。雪見に誤解されると思って無理矢理家に押し込んでおいたのが仇となったか…
「商品状態を確認するなんて嘘だったんですね。」
「ほ、本当ですよジェスさん。」
「ほぉ、でしたら何故美香さんのぬいぐるみばっかりなんですか?」
「そ、それは…」
「逃れようがないだろう。ジェス、このエロ神をどうしてやろうか。」
「飯抜きの刑はどうでしょうか?」
「や、やめてくれぇ!!」
「司教ならご飯は外で食べれるわ。そうしましょ。」
「そんな…」
さっき良いこと言ってやったのに、なんだよこの理不尽!!くそぉ!!
「あの…」
俺が壁に手を置いて泣いていると、後ろに立っていたパールが俺の前に出た。
「あ、補佐官さんじゃないですか。どうしたんですか?」
「俺が誘った。唐突だが、パールを迎え入れたいんだ。」
「「!?」」
「歓迎するよ!三人じゃこの家広すぎるしね。」
「新しい仲間が増えましたね!!」
改めて良い仲間だ。
「まぁ引っ越しのこととか色々あるからさ、とりあえず今日はご飯食べてけよ。」
「ありがとうございます皆さん。」
「タメでいいですよ。さぁパール、上がって上がって。」
「うん!」
パールがジェスに連れられ、楽しそうにリビングに向かっていく。俺もそれを見て、なんかホッコリしてきた。
「腹へったなぁ。サリー、今日の飯はなんだ?」
「あんたは外。」
「おいっ、今の流れで許されたんじゃないかよ!!」
結局その日、俺は喫茶店でマスター特製のサンドイッチで夕飯を済ませた。
「で、九時くらいに家に帰って10分以上頼み込んでやっと寝ることを許されたんだよ…」
「私が帰ったあとにそんなことがあったんだ…」
次の日、仕事の休憩時間に俺とパールはコーヒーを飲みながら前日の夜の話をしていた。
「そういえば昨日、ご飯食べながら二人があなたの神の力について教えてくれたよ。」
「え、全部?」
「全部だよ。颯太が転生者ってことも「エロ神」ってことも。」
「あの二人...いつか痛い目見せてやるからな。」
「『神の力を持つ者』って違う世界の人なんでしょ?向こうはどんな世界なの?」
「話したくないなぁ...」
正直こっちの世界のよりつまらないし、町並みだって中央部の都市トウキオに比べたらショボいもんだ。でも
ワクワクしたパールの純粋な瞳に俺は心を動かされた。
「向こうの世界は凄いぞ!通りを魔導車が途絶えることなく行き交っていたり、数百人を乗せた魔導船が空を飛んでいる。それはもう素晴らしい世界だ。」
「魔導車に魔導船!?超貴重な魔導石を使う乗り物が行き交ってるなんて!」
普通の車と飛行機のことだが、ここはこう言っておこう。
「見てみたいな...そんな世界。」
「俺ももう一度見たいんだ。」
「この世界を平和にすれば帰れるんだっけ?」
「あぁ、そのためにもまずはレイト教との協定だ。準備の具合は?」
「全然ダメ。アポをとるための手紙すら遅れない状況、何年かかるかわからない。」
「なるほどな。雪見が言うには早ければ7年後にイーリカがストラシア侵攻を開始する。それまでになんとかなるか?」
「してみせる!!」
今、俺たちが置かれている状況を把握しておこう。ストラシア大陸の東部を領土としているモンジル教団は南部のローブ帝国と敵対している。そしてストラシア大陸侵略を目論む東の大陸のイーリカ大魔法帝国がローブ帝国と軍事同盟を結ぶらしい。モンジル教団はレイト教、神ゴール同盟と協定を結ぶことで対抗しようとしているのだ。
そして、6年の歳月が流れた。




