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俺は「エロ神」じゃない!   作者: 柳原テツロウ
一章 異世界転生編
3/60

3話 魔王族は人間じゃない!

 サリーが窓ガラスにふれると1ページの地図が現れた。手で触れると、一つの大陸が拡大された。


「ここの大陸、円形なんだな。というか、完璧な丸だろこれ…」


「学者によれば地下に眠る魔力の結晶がどーのこーのらしい…」


「全くわからん。」


「まぁそういうのは後々教えるとして…」


サリーは手にタッチペンを持ち、地図に大きく字を書きこんだ。


「今、このストラシア大陸は4つの勢力に別れているの。『モンジル教団』、『レイト教国』、『神ゴール同盟』、そして『ローブ帝国』。モンジル教団は東部、レイト教国は西部、神ゴール同盟は北部、ローブ帝国は南部を支配しているわ。」


「話に水を指すようで悪いけど、その『神ゴール同盟』ってのがすごく気になる…」


「六人の神たちが結成した同盟よ。」


「神!?」 


「隣の大陸にはまだ伝わってないのかな?あのね、今から十二年前に大陸各地に超人たちが現れたの。魔法使いとは違う強大な力を持った者たちよ。」


「強大な力?」


「えぇ。そして彼ら全員が口を揃えて、自らの力のことをこう言っていたそうよ。『神の力』と。」


どうしようその言葉聞いたことある…絶対それ転生した人だ。でも…待てよ…


「十二年前?」


「ん、どうかした?」


「い…いやなんでもないけど…」


俺も神の力を持っている者のはずなんだけど、来たのはついさっきだ。十二年前…


「あ、そうそう!ちょうど今日、十二年ぶりに『神の力』持つ者が発見されたそうよ。」


「今日ですか?」


ソラは説明の時、『今回』と言っていた。以前にも何人か送っていたってことも全然考えられる。そして今日現れた奴は俺と同じ『今回』の転生者ということか。


「で、さっきの話に戻るわね。十二年前その『神の力』を持つ者による戦争が起きたの。」


「戦争?なんでまた。」


「わからない。でも結果を言えばこの大陸では多くの血が流れた。大陸全体が平和から一転して戦場とかした。」


怒りのような悲しみのような表現しがたいものがサリーの表情に現れた。俺の中にも彼等と同じ力がある、それを考えると胸が痛んだ。


「戦争が始まって終結するまでのたった二ヶ月の間にこの大陸は四つに別れてしまった。今でも四つの国の間に国交はあるものの国境付近では今でも小競り合いが絶えないの。」


「ここは安全なのか?」


「大丈夫よ。ここは大陸中央部『平和地区』、四つの勢力の緩衝地域よ、そう簡単には攻めてこれないわ。それに中央部には強い魔法使いの部族がいて町を守ってるから。」


「そういえばサリーも魔法使いだよな?」


「私なんて全然ダメな魔法使いよ。魔法使いにもとっても強い人たちがいて『神の力』を持つ者ほどではないけど、それでも中央部の平和を十二年間維持し続けているの。」


「魔法使いか…俺の大陸にも強い人が大勢いたよ(大嘘)」


「その話!今度是非聞かせて!私、世界中の魔法について知ることが夢なの!風土による違いが魔法にどんな変化をもたらすのか、研究しているの!」


急に熱が入ったとこを見ると、きっと彼女は『オタク』という部類の人間なんだろう。魔法オタク、異世界ならではの人種だ。


「わ…わかったよ、今度ね…?」


「ありがとう。さて、本当に話さなきゃいけないのはここからかな。ローブ帝国、又の名を『魔王族』。」


「魔王族!?」


なんか安心した。異世界といえばコイツらとの戦いだよな。小説とかだと勇者が魔王を倒して世界を救うっていう当たり前の展開があるけど、まだこの世界には魔王族がいる、つまりこれから奴等を倒した物が『勇者』になれる、という事だな…なんか急に自信が沸いてき…


「続きいいかな?」


「あ、どうぞ」


「奴等は神達が現れる少し前に現れた。約15年前に何の前触れもなく、大陸の南から侵略が始まり、最終的には中央部の町までその支配が及んだ。彼等は逆らう人間をことごとく皆殺しにし、多くの町で破壊行動を行った。当時、この大陸全土を治めていたストラシア王国も戦力の差になすすべなく、滅亡の危機に瀕していたわ。」


「酷い話だな。このトウキオも戦下にあったってことだろ?」


「そう、私の両親もその時に殺された。奴等には心がない。だから人を殺すことになんの躊躇もなかった。」


な…なんて話だ…。ちっ…何が勇者だ。戦争で一体どれだけの人間が死んだのか。俺がいた平和な世界とは何もかもが違うんだ。


「ごめんな…そんな暗い過去の話をさせるなんて無神経だった。本当にごめん。」


「い、いいよいいよ!まだまだ過去を引きずってるのは悪いことだよ。それに魔王族は『神』によって南に追いやられて今は静かにしてるんだから、本当にざまぁ見ろって感じだよ!さぁさぁ暗い話の後は楽しいことを考えよう!そうだね、今日の食事なん…」


サリーは少し早口になっている。俺に気を使っているのか…なんかいつまでも暗くなってるのは悪いな。


「お風呂は部屋のを使うのもありだけど、大浴場があるわよ。露天風呂もあって、そっちとてもいい景色が見えるわ、よかったら入ってみてね。」


「わかった、ありがとうサリー。」


「あ、後!出発は明後日にしてもらえない?片付けなきゃいけない仕事が入ってて。」


「いつまでも待つよ。仕事頑張れよ。」


「うん!では、ごゆっくりどうぞ。」



 サリーが部屋を出ていくと、俺はまたソファーに腰かけた。窓から見える景色はさっきと変わらない。変わらないはずなのにさっきより綺麗に見えた。


「結局はこの世界を平和にしなければ帰れないんだし、旅の途中で色々情報を集めよう。とりあえず寝て、風呂は夜にでも。」



 そのままソファーで寝てしまった。そして俺が呑気に眠る中ある一人の転生者がこの世界を

さ迷っていた。その者は中央部北部の森にいた。


「さっき扉の中に入ったと思ったらいきなりこの真っ暗な森…。転生なんて本当なのかしら?」


月明かりがあたる近くの水溜まりにいき、水面に写った自分の顔を見る。


「何も…変わってないよね…」


喉の渇きを潤すためにに手で水をすくおうとする。だが、水は手に触れた途端に凍りつき、辺り一面に霜が降りた。


「やっぱり本当なんだ…神の力って…」


フードを被りそのまま近くの木に寄りかかり寒さという感覚を持たないまま、凍りついた木の下で眠りについたのだった。



 「ふぁー…よく寝た、というか寝すぎたな。もう日を越えたか…。ちょっくら風呂でも行ってきますか。」


目覚めてすぐにホテルの浴場へと向かった。入口の見た目は案外普通だ。男と書かれた青いのれん、入口の下駄箱。本当に普通である。ちなみに下駄箱にはスリッパが一組置いてあった。


「こんな時間なのに誰かいんのか?」


服を脱ぎ、腰にタオルを巻いて引き戸に手をかける。


「さてさて本日も疲れましたなぁー、てか昨日か。」


ガラガラガラ…


引き戸を開けるとそこには床から壁、天井ま木で出来た浴場があった。


「凄いな、木の匂いがする。それに結構広いな。でもって露天風呂もあるのか…。よっしゃあ早速いくか。」


浴場の奥の扉から外に出るとそこからは美しい月が見えた。仄かに黄色く光を受けた真ん丸の月。不思議だ、向こうの世界と全然区別がつかない。


「なんか懐かしい、昔よく望遠鏡とか使って覗いて見たりしたっけ。」


手で望遠鏡を作って綺麗な月を覗く。が、そこで輪の中に金色の何かが写った。何かと思いそのままアングルを下を向けると


「え」


輪の中に見えたのは、腰まで湯に浸かり胸を露天風呂の岩に押し付け、月を顔を赤くしながら空を眺めるサリーの姿だった。


「さ、さ、さ、サリー!?」


「え…」


サリーはゆっくりとこちらへ顔を向けた。そして目が合うと、赤かった顔はさらに赤くなった。


「キャァーー!!」


サリーは湯から飛び出ると凄まじい速度で俺の目の前に迫り、強烈な蹴りを腹にいれて風呂へと突き落とした。


「ゲ…ゲホッ…ゲホッ…ま、待ってくれよ!ここ男湯だろ?」


「変態!!!いますぐ消えろ!!」


サリーは湯に手を突っ込むと魔法で温度をあげ始めた。


「熱い熱い!!お、落ち着いてくれサリー!!ぐあぁぁっっーー!!」


 3分後


「や、やっと落ち着いたか…。」


ベンチに座りながらタコのように赤くなった俺の体をバスタオルを胸まで巻いたサリーが申し訳なさそうな顔で魔法で冷やす。


「ごめん…びっくりして、男湯に入ってたのは私なのに…。えっと…バスタオルありがと…」


「わかったからいいよ。えっと…俺がこういうこと言うのは良くないと思うんだけど…もしかしてそういう趣味?」


「ち、違うわよ!!この時期はお客さんがほとんどいないから…」


「女湯に行けよ。」


「露天風呂は男湯にしかないの。1週間ごとに男湯と女湯入れ換えてて、今週は男湯だったというわけ。はぁ…まさかソータがこんな時間に来るとは…。」


「ごめんごめん、ソファーでそのまま寝ちゃって。」


「特注の高級ソファーが仇となったか…。」


「あのソファー最高だ。」


今さらだが、かなりカオスな状況だ。露天風呂のベンチに座るタオル一枚ずつの男女。理性を失っていない自分が凄いと思う。と、とりあえず…星でも。俺は気を紛らすために空を見上げた。町が明るいためか『満天の星空』とは言えなかったが、東京の空と比べればなんと美しい空だ。


「いい景色でしょ、ここ。」


「あぁ」


「私がここにホテルを建てたのはこの景色に心を動かされたから。戦争が始まって飛行機に乗って避難をするときに窓からこの景色が見えて思ったの。『なんて綺麗なんだろう』って。変よね?戦争中なのに。」


結局はどんなに忘れそうとしても彼女の心には戦争の影がいつまでも着いてくるのだろう。彼女だけじゃない。この大陸にはそんな人達がきっと大勢いるに違いない。俺がこの世界に来た理由は…やっぱり


「よし決めた。俺がこの大陸を平和な場所にして見せる。何が出来るかはまだ全然わからないけど、出来ることはたくさんあるはずだ。」


「ソータ…」


「無謀な挑戦かもしれないけど、きっとそれが俺が生きている意味なんだ。良ければサリーも着いてきてくれ。」


「勿論着いてくよ!」


明後日、いやもう明日か。この旅で掴んでやる平和の鍵を!


俺は拳を握りベンチから勢いよく立ち上がった。そして腰に巻いていたタオルが落ち、俺の魔槍が晒される。


し、しまった…。


「キャァァァァァ!!!!」


平和への旅が始まる。














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