21話 この雪原は冷たくない!①
司教に就任してから約二ヶ月、神ゴール同盟と協定を結ぶために俺は北へ向かうこととなった。そして今日が出発の日、引っ越したばかりのそこそこ立派な家の玄関でゲリヤが待っていてくれた。
「サリー、窓の鍵は?」
「全て閉めたわ。」
「ジェス、荷物の確認は?」
「完了しております!!」
ドタバタしながら最終チェックを行う俺たちを呆れた目で見るゲリヤ。何故、サリーとジェスが荷物を準備しているのかというと。
「もうっ!颯太ったら昨日急に言ってきたのよ!!」
「ちょっと外務大臣さん!!しっかりこのバカをしつけてくださいよ。」
「いやぁ…そんなこと言われても…」
俺は近場のギルドの名高い冒険者たちに協力を要請したが、司教の頼みとはいえ、そんな、危険はおかしたくないとキッパリ言われてしまった。それで急遽、サリーとジェスを連れていくこととなった。そんな冒険者たちもビビる場所に俺達は行くのだと考えると少し足が震えてしまう。
「よしっ、これで準備完了だ。待たせたなゲリ。」
「そのあだ名を止めろアホ司教。」
「アホだとコラ?」
「ちょっと落ち着きなさいよあなた達。」
顔を近づけ睨み合っていた俺たちを引き剥がすサリー。
「すまない取り乱した、それにしてもこの二人は強いのか?」
「あぁ?俺の仲間にイチャモン付けんのかゲリ。」
「また言ったな!!こうしてやる!!!」
「やめろぉ!!折角整えた髪をグシャグシャにするなぁ!!」
すぐに喧嘩になる俺たちを見てサリーとジェスは溜め息をつく。
「ねぇサリー、私たち帰ってこれますかね?」
「どうだろう…私、すごく不安だわ。」
「「はぁ…」」
そしてもう一度深い溜め息をついた。
結局それからしばらくして、ようやく家を出た。未だに怒りの視線を向けてくるゲリを横目に見ながらヨクセルの町を出て、ジャングルの中へと入っていく。ちなみに就任式の際に俺が民衆に提案した件が通り、美香さんと翔弥さんは『大司教』として本部で今まで通り、働いてもらっている。
「さて、久々に私の魔法の出番よ。」
サリーの肩に手を置けと催促する。俺とジェスは今まで通り、普通に肩に手をおいたが、ゲリヤは状況が理解できずに戸惑う。
「お前、魔法使いか?出身は?」
「ヤンドル村よ。」
「や、ヤンドル村…数々の天才魔法使いを排出しているというあのヤンドル村か?」
「間違いないわよ。」
え、あの『エロ神』って言って俺を崇めてきたあの連中が…世間ではそんな感じなんだ…
「一度でいいから行ってみたいものだ。私は魔法使いではないが魔法にはとても興味がある。」
「私ももう一度行ってみたいですね、あの村の方々には親切にしていただきましたからね、次いく機会があれはお土産でも持っていきたいですね。」
「今度村に連絡してみるわ、ゲリヤも是非来てね。」
「ありがとう!!サリー!!」
なんか仲良くなってるサリーとゲリヤに突っ込みたいところだが、ヤンドル村にもう一度行く流れになっていることに俺は顔を歪めた。
「二度と行きたくねぇよあんな村…」
「ちょっとぉ!!みんな歓迎してくれたのにそんなこと言わないでよね。」
「そうですよ、『エロがみ…」
「い、言うなぁッ!!!」
俺はジェスの口を慌てて押さえようする。しかし、幽霊であるコイツを口を塞ぐことは不可能だった。俺の手は空を切るようにすり抜けた。
「す、す、すり抜けた!?」
ジェスのすり抜ける体に驚いてくれたおかげで『エロ神』についてはバレずにすんだようだ。助かった…。
「あ、私幽霊なので体すり抜けますよ。」
「ひぃっ!!」
サリーの拳がジェスの体をすり抜ける。すまないなゲリヤ、慣れてくれ。
「まぁ塩さえ塗れば触れることができるようになりますよ。」
「な、なるほど…」
まぁ結構突っ込みどころが多い自己紹介となったが、そのままゲリヤが全て理解し終える前にサリーの魔法で俺達は瞬間移動した。視界がグニャっと歪み、ふと目を開けるとそこは広い雪原だった。しかし、寒さは感じなかった。俺は足元に降り積もった雪に手を突っ込んでみた。
「これ、雪?全然冷たくないじゃん。」
「ソータ、雪を知っているのか?」
「そりゃ知ってるよ。冬になったら降るだろ?」
「そういえば、隣の大陸から来たと言っていたな。」
「そ、そうですけど。」
やっぱりまだ焦るな…そういえば俺が異世界から来たっていうことを知ってるのは他の転生者とサリーだけだもんな…
「この大陸には雪は降らない。数年に一度、レイト教領内の大陸最高峰のフリ山の山頂に薄い氷が張る程度だ。」
「じゃあそうだとしたらこの雪はなんなんだ?サリー、場所あってるのか?」
「おかしいわね…ちゃんと神ゴール同盟領内に座標を設定したはずだけど…」
サリーの瞬間移動魔法は一日一回限定だ。とりあえず、明日までは動けない。さすがに暇すぎた俺達は冷たくない雪合戦をして遊んだ。まぁそれにも小一時間で飽き、結局俺とゲリヤが近くに何かないか探しに行かされることになった。
「探すにしても進んでも進んでも雪ばっか…」
「サリーの魔法のおかげで迷ったとしても帰ってこれる。進める限り歩くぞ。」
「こんな時、俺の能力は全然役に立たねぇな…」
「『神の力』、かなり興味があるが、お前の能力ってどんな感じなんだ?」
別にこいつなら話しても問題はなさそうだ。まぁ『エロ神』については言わないでおこう。
「簡単に説明すると、俺の中には俺自身の他に5人の人格がある。性格も全然違うかなり癖のある奴等だよ。で、そいつ等全員が電気とか火とか特殊能力持ってるんだ。」
「おとぎ話みたいだな…」
「早々に信じるのはキツイかもな。じゃあ特別に見せてやるよ。《雷》!!」
目が青く光り、少しだけ髪が反りたつ。
「少し鈍ってんじゃねぇか?少し、前より重てぇような。お?てめぇがゲリ…」
「ゲリヤだ」
「面倒くせぇからゲリでいいじゃねぇか。どうだ颯太の能力、面白いだろ。」
「興味が更に高まった。お前の能力は見たところ電気のようだな。何かやって見せてくれ。」
「見世物じゃねぇぞ。帰っていいか?」
「た、頼む!!!神の力を間近で見るのが長年の夢なんだ!!」
「お、おいっ、そんな純粋な視線を向けるんじゃねぇ…ったく、一回だけだ。よく見とけよ。」
「おぉっーー!!!」
「ふぅ…いくぞっ!!電気流星群っ!!!」
『電気流星群』は無数の電気の玉を目標に降り注がせる《雷》の必殺技である。今日も絶好調な電気玉たちは折角綺麗に雪が積もっていた大地に嘲笑うようにして降り注いだ。
「うおぉぉぉっっっ!!!!!」
しかし、ゲリヤの感動もつかの間、二人は緩やかな斜面の立っていることに気付いた。そして電気玉が降り注いだのはこっから数メートルも高いところ。よって雪崩が二人を襲う。
「おっと…やっちまった…颯太、後はなんとかしとけ。」
目の青い光が消え、元の俺に戻る。
「おいっ!ちょっとまて!!!ヤバイってこの状況っ!!」
「とりあえず逃げなければ!!」
二人は必死に雪崩から逃げる。しかし、相手は雪崩だ。すぐにもうすぐ後ろに迫っている。ここで俺の目が赤く光る。
「相手が雪なら俺に任せろ、この《炎》が溶かしてやる!!」
振り返り、迫り来る雪崩に向かい、手のひらを向けた。そして、あたり一面を眩い光で照らしながら、凄まじい火力の炎を放つ。
「おおっ!!《炎》の人格!!すごいっ!!」
「この炎は金属をも一瞬で溶かす!!雪崩など一瞬だっ!!!ん?…はぁっ!?」
雪崩は…というより泥々の溶岩みたいなものになって再び流れてきた。蒸気がたちのぼり、熱が数十メートル離れたここまで伝わってきた。
「おいっ!!なんだよあれ!余計危ないものになったぞ!?絶対ヤバイって!!」
「急用ができた、さらば。」
「何しに来たぁ!!!」




