19話 俺は政治家じゃない?
投票まで残りわずか、俺は頭にハチマキを巻き町を練り歩き、自己PRを始めた。俺はまだこの町に来てから日が浅い、だが俺には勝利のための作戦があった。そして、投票まで4日前の今日も町での選挙活動を開始する。
「ハナービラ!!」
まずサリーが魔法で特大花火を打ち上げる。すると人々が続々と何事かと集まってくる。
「どうぞどうぞ暖かいココアですよ。」
そして、ジェス自慢のココアで誘い込み、そのままココアの飲みながら俺の演説を聞いてもらうのだ。この冬という季節を利用した完璧な作戦だ!!
「……よってこの課題の解決が私の念願であります!どうか、皆様の清き一票をこの江口颯太によろしくお願いします!」
台本どおりに演説を終え拍手の中、握手をしながらまた次の演説場へと向かう。
「今回いい調子ね。200人くらい集まったんじゃない?」
「今日の分のココアも最後まで持つかどうかわかりません。」
「そうか、次の演説予定時間まではまだ少し余裕がある。それまでに新しいココアを作っておいてくれ。」
「わかりました。」
俺は完全に一人の政治家となっていた。忙しいスケジュールを淡々とこなし、部下を引き連れ民衆と握手までしている。これはまさしく政治家であった。そんな良い気分になっていた俺の耳に不愉快な声がとんできた。
「皆さんこんにちは、私はシーラス・ジェイン!よろしく頼む。」
15メートルほど先にいる300人ほどに囲まれ、キラキラとするウザい金髪男。今回の司教選の最有力候補らしい。俺とは違い、素で一人称が『私』だ。アイツに人気がある理由はただ一つ!!
『顔』!よって300人いる人たちの8割が女なのも当然だ。
くっそぉぉおお!!確かにイケメンだがなんか癪に触る。今すぐにあの人だかりを凪ぎ払いたい気分だ。そのことを持っていたら、ふとアイツと目があってしまった。シーラスはニヤリと笑みを浮かべると俺を指差し、
「おっとそこにいるのは今回の司教選に立候補してきたどこの馬の骨ともわからない男ではないか。今日もココアを配るボランティアお疲れ様です。」
こいつ、ぶん殴ってやりてぇ。でもここは冷静にならなくては
「お気遣いありがとうございます。シーラスさんもアイドル活動、頑張ってくださいね。」
シーラスもぶん殴ってやろうかという顔をしたが、周りに女性たちがいるのを思い出したのか、すぐに笑顔に戻る。アイツが営業スマイルを女性たちに配っているうちに俺はその場を立ち去った。そして再び誓う。
絶対に司教になってやる。
俺は次の演説場で集まった500人ほどの民衆に言い放った。
「私はここに宣言しよう!!私が司教になった暁には真の平等主義者としてこの町から容姿による差別を一切なくしてみせる!!!」
俺が高らかにそう叫ぶと盛大な拍手と共に町全体に聞こえるレベルの『ソータ』コールが始まった(主に報われない可哀想な男たちによって)。俺自身も手を叩きながらコールを誘う。
「さぁ立ち上がるのだ!!真の平等主義へ!!このモンジル教団を変えるのだぁ!!!」
「「「「「おぉぉぉぉっっっ!!!」」」」」
そんな俺を遠くからココアを配りながらみるサリーとジェス。頼む、そんな白い目で見ないでくれ。これはこのモンジルのためなんだ。おい待ってくれよ、勝手にどこかにいかないでくれ。
俺は立候補者の中で圧倒的な数の演説を行った。それはそれはツラい日々だった。喉が枯れようともサリーの魔法で無理やり声をだし、凍える朝の通勤の時間帯でも道でパンフレットを配り続けた。そして、そんな日々が報われるのかそれとも水の泡となるのか。今日、全てが決まる。早朝、俺は赤く充血した目をパチパチとさせるとベッドからゆっくりと起き上がった。
やばい…一睡もできなかった…
モンジル教団では投票日当日の選挙活動が禁止されている。そのため、今日は夕方にある開票時間まではゆっくりとしていられる。重い目を無理やり開けながら部屋を出てリビングへと向かう。しかしそこには先客がいた、二人。
「そ、ソータ…おはよう…」
「おはようございます…」
「おはよ…お前たちも…寝れなかったのか…?」
「「うん…」」
どうやら、全員今日が心配で寝れなかったみたいだ。
よく見ると、キッチンはキャベツの千切りの海となっていた。
そしてさらによく見ると部屋のあちこちに魔法を発動させるための魔方陣が書かれていた。
そしてさらにさらによく見ると壁には刀のようなもので切られた跡があったり、床は明らかに魔法を使い、焦げた跡があった。俺は宿であることを思い出し、一気に目が覚めた。
「おいコラ!!お前ら何してやがった!!」
「「ご、ごめんなさいっ!!!」」
結局、掃除(修復)が終わったのは夕方になったころだった。途中、投票しに出掛けたっきり帰ってこないサリーとジェスを探しに川までいき、釣りをしていた二人を取っ捕まえにいった以外はほぼ、手を動かしていた。俺、意外とこういう面倒くさい仕事が好きなのかもしれない。
当選者の発表30分前になると俺は黒いスーツに着替え、宿を出る。宿の前には俺を応援してくれる民衆たちが集まっていてくれた。その数、約300人。俺を先頭に本部までの道を歩く。横サイドの建物の窓からも多くの人たちがエールをおくってくれている。その光景はまるで、英雄の凱旋のようであった。
本部の周りには2万人ほどの者たちが終結していた。超巨大なモニターがいつの間にか本部の周りにいくつか設置されており、画面の中心にはモンジル教団のシンボルである天使のマークが映されていた。
「どうソータ、緊張する?」
「そりゃするさ、でもワクワクするんだよ。」
「ワクワクですか?私はまだ震えが止まりません。」
サリーとジェスだけでなく、俺を応援してくれた人たちも俺と一緒に手を合わせ、祈ってくれていた。俺も目を瞑り、発表の時を待つ。そして、ついにその時が来た。
『どうもごきげんよう。本日を持ちまして、私はこのモンジル教団の司教の座からを退かせていただきます。』
モニターに映り引退宣言をする美香を見て、民衆の中には泣く者も少なくなかった。
『ですが、私の後を次いでくれる者たちがいます。きっとその者たちがこのモンジル教団を導いてくれるでしょう。』
そこまで言うとドッと泣く者が増えた。俺も正直、少し涙が溢れそうになった。だが、俺は涙を堪え、涙を流すサリーとジェスの肩に手を置く。
「泣くなよお前ら、俺が美香さんの後を次いでみせる。だから、泣くな。」
『さぁ、皆さん涙を拭いて!新たなモンジルの栄光となるである者たちの発表よ!!』
美香がそう言うとモニターに司教と表示された。そして、名前を伏せた状態で下から順に獲得票数が表示されていく。俺は息を飲みながらその数を見る。
「44568…58135…73905…139652…145473…
213582…332568…そして、次が…最後…」
一位の獲得数は一の位から他よりもやたらとゆっくり表示されていく。
「8…6…1…3…9…」
○86139、そこまでの表示が完了する。イチイチため長くてもう心臓が張り裂けそうだ。そして、十万のくらいが捲られた。そして、それと同時にドッと歓声が沸き起こった。俺もその数字を見て、腰がひけそうになった。
「きゅ、きゅ…9だと!?」
獲得数986139票、前代未聞の圧倒的な票数に民衆はもうパニックになるレベルに盛り上がっていた。
「さぁ来るわよソータ!!」
「堂々としてください!!」
俺は深呼吸し、モニターを睨んだ。この瞬間を俺はとても長く感じた。
そして、ついに…!
一斉に写真と名前が票数の横に表示された。
「「「「一位!!エグチソータ!!!」」」」
「あ…あぁっ!!!あぁぁぁぁっっっ!!!」
もう俺の涙腺は限界だった。止まらない涙が目に焼き付けておきたいモニターの画面を中々見させてくれない。もう立つ力もなくなった俺をサリーとジェスが支えてくれた。
「おぉぉっっ!!よがっだぁ!!」
「も、もうっ私もなみだがとまらないでずぅ!!」
コイツらもコイツらで泣きすぎだろ…。俺はそのまま流れるように胴上げされた。あぁ、なんだろうこの気持ち。人生のなかで一番嬉しい時が異世界にいる今だなんて…
それから俺の涙が止まるまで約2時間もかかったらしい。正直、あまりの喜びでかその後のことの記憶がない。そんな俺が、言いたいことが一つだけある。
ーーーそういえば俺、『エロ神』だった。ーーー